【ロードレース詳報】好調パウレスが心理戦を制す 家族の前で宇都宮JC2勝目

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秋晴れの宇都宮森林公園特設コースで繰り広げられた全力勝負。古賀志林道で抜け出した5名による心理戦を制したのは「スプリントに自信があった」と振り返るニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)。来日した家族の前で2022年に続くジャパンカップ2勝目を掴み取った。


ローソン・クラドック(アメリカ、ジェイコ・アルウラー)がいつもの調子で観客を盛り上げる photo:Kei Tsuji
現役ラストレースに挑む畑中勇介(キナンレーシングチーム) photo:Makoto AYANO
日本勢が最前列に並びスタートを待つ。その中心はこのレースで引退する畑中勇介(キナンレーシングチーム) photo:Kei Tsuji

穏やかな秋晴れのシーズン最終戦。1990年開催の世界選手権のメモリアルレースとして1992年に初開催された宇都宮ジャパンカップも今年で31回目を迎えた。1996年にはワールドカップシリーズ最終戦に組み込まれ、近年は欧州勢もこぞって一軍選手を揃えて参戦する伝統の戦いが、佐藤栄一市長による号砲で幕を開けた。

宇都宮森林公園の特設コースは風こそ冷たいものの、基本的には穏やかな晴れ時々曇り。名勝負を生み出してきた古賀志林道(釣堀〜頂上間1.14km/平均勾配8.4%)を含む1周回10.3kmのコースを合計14周する144.2kmで、獲得標高は2,660m(1周回当たりの獲得標高は190m)に及ぶ。この日はスタート直後からビッグネームが動きを見せた。

号砲とともに飛び出した畑中勇介(キナンレーシングチーム) photo: Kei Tsuji
宇都宮JC特別ジャージに身を包むミッシュ・ビードル(ニュージーランド、チーム ノボ ノルディスク)も先行を試みる photo: Kei Tsuji
1周目、入部正太朗(シマノレーシング)と山本大喜(JCL TEAM UKYO)を含む6名が先行 photo: Satoru Kato
リドル・トレックがメイン集団をコントロール。先頭を牽引するのはマッズ・ピーダスン(デンマーク) photo: Kei Tsuji

号砲と共に飛び出したのはこの日も畑中勇介(キナンレーシングチーム)だった。日本勢と海外勢が入り乱れた状態で最初の古賀志林道へと突入。「かなり体調が悪かったので、成績狙いではなく逃げに乗る作戦だったんです」と言う入部正太朗(シマノレーシング)が古賀志林道を先頭付近で越え、頂上通過後のダウンヒルではアンドレア・パスクアロン(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)が飛ばす。「あまりにも速くて必死にしがみついた」と入部が振り返る超速ダウンヒルによって、すぐ25秒ほどのタイム差が生まれた。

パスクアロンと入部に続いたのはサイモン・フィリップ・イェーツ(イギリス、チーム・ジェイコ・アルウラー)とゲオルク・シュタインハウザー(ドイツ、EFエデュケーション・イージーポスト)、山本大喜(JCL TEAM UKYO)、そしてハミッシュ・ビードル(ニュージーランド、チーム ノボ ノルディスク)。元全日本王者2名が含まれた5名逃げをメイン集団は一時的に見送った。

ゲオルク・シュタインハウザー(ドイツ、EFエデュケーション・イージーポスト)ら強力な4名が逃げる photo: Kei Tsuji
最初のKOMはサイモン・フィリップ・イェーツ(イギリス、チーム・ジェイコ・アルウラー)が先着 photo: Satoru Kato
ハイスピードで古賀志林道のつづら折れを登る photo: Kei Tsuji
メイン集団内で登りをこなす留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト) photo: Makoto AYANO
ジュリアン・ベルナール(フランス、リドル・トレック)らによるアタックが散発的に発生した photo: Kei Tsuji

推しも推されぬ世界屈指のクライマーであるイェーツと、22歳ながら今年のジロ・デ・イタリアの頂上フィニッシュを制したシュタインハウザーが刻む快速ヒルクライム。2周目の古賀志林道で入部とビードルが千切れ、4名となった逃げグループに対し、リドル・トレックが45秒というタイトギャップでメイン集団をコントロールした。

一発ジャンプが可能な距離だけに、4周目に入ってメイン集団からクリテ覇者トムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック)を含むアタックが続いた。次々と選手たちが先行して逃げグループを捉え、小石祐馬(JCL TEAM UKYO)たちが動いた末にアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)の一人逃げに切り替わる。

単独で抜け出せたのはアントニー・ペレス(フランス、コフィディス) photo: Kei Tsuji
入部正太朗(シマノレーシング)と観客に拍手を贈られながら、自身最後のジャパンカップを終えた畑中勇介(キナンレーシングチーム) photo: Yuichiro Hosoda
小石祐馬や石上優大、留目夕陽が含まれた先行グループが生まれるも引き戻される photo:Makoto AYANO

入部と共に最後尾をひた走っていた畑中勇介(キナンレーシングチーム)はファンの声援に応えながら残り11周回でレースから離脱。欧州挑戦や全日本タイトル獲得、ジャパンカップ5位を含む長い現役生活に終止符を打っている。

単独で逃げたペレスは6周目の山岳賞を獲ったのちに引き戻され、優勝候補に挙げられていたマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)もレースから離脱。激しく動くメイン集団からはスーダル・クイックステップのイラン・ファン・ウィルデルとマウリ・ファンセヴェナント、ピーテル・セリー(ベルギー)、昨日10月19日に30歳の誕生日を迎えたマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)が抜け出す場面もあったが、やはりメイン集団を振り切ることは叶わない。ワールドチーム勢が主導するアタックと追走、吸収、そして牽制を続けるメイン集団からは、アシスト役を担った新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)らもこぼれていった。

スーダル・クイックステップは勝ち逃げに2名を乗せた photo: Kei Tsuji
逃げグループを引っ張るマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo: Kei Tsuji

残り6周回突入時点でメイン集団の人数はたった45人。下りの名手モホリッチによるダウンヒルアタックも功を奏さず、一時的にカウンターで小石や留目夕陽(EFエデュケーション)や石上優大(愛三工業レーシングチーム)が含まれた逃げが先行したものの、マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)の無線指示を受けたブレイディ・ギルモア(ニュージーランド)が残り5周回の古賀志林道でペースアップ。ギルモアのアシストを受けたウッズがアタックを仕掛けるも決定打に欠け、人数を減らしたのみに留まった。

大きな動きが生まれたのは11周目(残り4周)の古賀志林道だった。ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)のアタックにウッズが反応し、登りで遅れたモホリッチとスーダルのファン・ウィルデルとファンセヴェナントがダウンヒルで合流した。

最終周回の古賀志林道でペースアップするニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) photo: Kei Tsuji
最終周回、マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)が古賀志林道でアタック photo:Makoto AYANO
最終周回の古賀志林道をトップで登り切ったのはマイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)ら photo: Satoru Kato
最後の古賀志林道、ライバルの位置を確認するマウリ・ファンセヴェナント(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo: Kei Tsuji

好調パウレスと登坂を得意とするウッズ、スーダルのファン・ウィルデルとファンセヴェナントにモホリッチ。優勝候補に挙げられる実力者ばかりの5名グループが、必死に追走するアクセル・ジングレ(フランス、コフィディス)やスクインシュを振り切って巡航。淡々とローテーションを回す5名は残り3周、残り2周の古賀志林道も無難にこなして最終周回へ。

最終周回の古賀志序盤。ウッズとパウレスがアタックとハイペースを刻んでモホリッチとファンセヴェナントを振り落としたものの、モホリッチが得意の下りで合流し、ファンセヴェナントが「チームメイト待ち」でローテーションを拒みペースダウンしたことで田野町交差点通過後にファンセヴェナントも合流&アタック。吸収とウッズのカウンターを経て5名は牽制状態に陥った。

勝負はゴールスプリントへと持ち込まれるかと思われたが、ラスト1kmを切ってファンセヴェナントがアタック。これを好機として掴んだのはパウレスだった。

イラン・ファン・ウィルデル(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が追いつきざまにカウンターアタック photo: Kei Tsuji
カウンターに反応するマイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック) photo: Kei Tsuji

「スプリントには自信があったけど、スーダルは2人いたし状況的に難しかったんだ。ファンセヴェナントの加速はタイミング的にも完璧で、彼のドラフティングを使って捕まえて、残り300mからスプリントしたんだ。長い距離だったけど脚はまだ良い感じだった」と言うパウレスが、後続を振り切ってガッツポーズ。心理戦を経て2022年に続くジャパンカップ2勝目を掴み取った。

秋のグランピエモンテで43km独走勝利を掴み、イル・ロンバルディアで8位に入った好調そのまま宇都宮に乗り込んだパウレスの勝利。「ジャパンカップは大好きなレース。今回は家族と一緒に戻ってくることができて良かった。もちろん(まだ小さな)子供は今日のことを覚えていないと思うけど、妻と子供と3人で撮った写真はずっと残るんだ。とても嬉しいよ」と、フィニッシュ後に呼び寄せた家族と共にインタビューに答えた。

ロングスプリントを制したニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:Kei Tsuji
2022年に続くジャパンカップ2勝目を掴み取ったニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:Kei Tsuji

最後にアタックしたファン・ウィルデルが2位に入り、ウッズをスプリントで下したモホリッチが3位表彰台獲得。積極的に登坂アタックを繰り返したウッズは悔しい4位だった。

海外勢による全力勝負が繰り広げられた結果、完走したのは54名。積極的なアシストが目立ったルーカス・ネウルカー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト)がU23最上位、14位でフィニッシュした愛三工業レーシングチームの岡本隼がベストアジアンライダー賞を受賞している。

激闘を経て表彰台に登ったニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)、イラン・ファン・ウィルデル(ベルギー、スーダル・クイックステップ)、マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo: Kei Tsuji
ベストアジアンライダーは岡本隼(愛三工業レーシングチーム) photo: Kei Tsuji
ルーカス・ネウルカー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト)がU23最上位 photo: Kei Tsuji
イェーツ、ペレス、ライアン、パウレスが山岳賞を獲得した photo: Kei Tsuji

宇都宮ジャパンカップ ロードレース結果

1位ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)3:30:30
2位イラン・ファン・ウィルデル(ベルギー、スーダル・クイックステップ)
3位マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)
4位マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)
5位マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー、スーダル・クイックステップ)+0:04
6位ジュリアン・ベルナール(フランス、リドル・トレック)+4:16
7位アクセル・ジングレ(フランス、コフィディス)+4:26
8位トムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック)+4:35
9位ルーカス・ネウルカー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト)
10位エドアルド・ザンバニーニ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)

text:So Isobe

photo:Kei Tsuji, Makoto AYANO, Satoru Kato, Yuichiro Hosoda