2016年ジャパンカップ

8万5千人の前で展開されたジャパンカップ本戦。最終周回の古賀志で抜け出したダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック)の独走力が冴え渡り、キャリア初となる勝利をここ宇都宮の地で飾ることとなった。

眩い秋晴れの好天のなかスタートを待つ2016ジャパンカップサイクルロードレース眩い秋晴れの好天のなかスタートを待つ2016ジャパンカップサイクルロードレース
午前10時にレースはスタート午前10時にレースはスタート photo:Kei Tsuji2015年ジャパンカップ覇者バウク・モレマ(トレック・セガフレード)とダミアーノ・クネゴ(NIPPOヴィーニファンティーニ)2015年ジャパンカップ覇者バウク・モレマ(トレック・セガフレード)とダミアーノ・クネゴ(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Makoto.AYANO


今年で開催25回目となる節目のジャパンカップを迎えたのは宇都宮森林公園上空に広がる青空だった。この日の最高気温は20度まで上がり、ロードシーズンを締めくくるにふさわしい絶好のコンディションの中で選手たちがスタートラインに並ぶ。

スタートの1時間前から行われた出走サインでは、このレースで現役から退くクリスティアン・メイヤー(カナダ、オリカ・バイクエクスチェンジ)やシャビエル・ザンディオ(スペイン、チームスカイ)、伊丹健治(キナンサイクリングチーム)らがファンに挨拶。キャノンデール・ドラパックやNIPPOヴィーニファンティーニを先頭に午前10時ちょうど、佐藤栄一宇都宮市長の号砲によって4時間弱のレースが幕を開けた。

出走サイン時のインタビューで「逃げる」宣言をしていた堀孝明(宇都宮ブリッツェン)と11月のツール・ド・おきなわで引退する井上和郎(ブリヂストン・アンカー)が積極的に動き、1周目の古賀志林道を下る頃にはマッティ・ブレシェル(デンマーク)とマルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム)も加わった4名が抜け出す形に。

エウジェニオ・アラファーチ(イタリア、トレック・セガフレード)を先頭に追走するメイン集団エウジェニオ・アラファーチ(イタリア、トレック・セガフレード)を先頭に追走するメイン集団 photo:Makoto.AYANOジャパンカップがラストレースとなる伊丹健治(キナンサイクリングチーム)ジャパンカップがラストレースとなる伊丹健治(キナンサイクリングチーム) hoto:Makoto.AYANO
メイン集団は各チームが先頭交代しながら逃げる5人を追走するメイン集団は各チームが先頭交代しながら逃げる5人を追走する photo:Makoto.AYANO
奥の平坦路区間でトレック・セガフレードが集団前方に覆い被さるように蓋をしたが、それをこじ開けてベンジャミン・ヒル(オーストラリア、アタッキ・チーム・グスト)と安原大貴(マトリックス・パワータグ)が追走を試みる。2周目の古賀志林道で安原を千切ったヒル一人が3周目突入を前に何とか追いつき、先頭5名をメイン集団が追いかける「定型」が完成した。

逃げグループに強力なブレシェルが加わったことを考慮してか、当初のタイム差は2分半で頭打ち。トレック・セガフレードはエウジェニオ・アラファチ(イタリア)を、オリカ・バイクエクスチェンジは引退レースのメイヤーを、チームスカイは雨の2013年大会で5着に入ったダビ・ロペスガルシア(スペイン)を牽引役として集団前に配置する。ブレシェルを逃げに乗せたキャノンデール・ドラパックは中盤まで集団中ほどに位置し、戦力の温存を図った。

エスケープ内では山岳賞争いが行われ、最初は堀がガルシアとヒルを下して先頭通過し地元宇都宮のファンを盛り上げる。6周目は宣言通りに井上が、9周目と12周目はいずれもガルシアが獲り、この日の表彰台を確保。8周目には序盤のブリッジで力を使ったヒルが、11周目には井上が脱落し、先頭グループの戦力が削がれていく。

古賀志林道を登るプロトン古賀志林道を登るプロトン photo:Kei Tsuji
機材の不調を訴えるマヌエーレ・モーリ(ランプレ・メリダ)がチームカーから調整を受ける機材の不調を訴えるマヌエーレ・モーリ(ランプレ・メリダ)がチームカーから調整を受ける photo:Makoto.AYANO3周目の山岳賞を獲得した堀孝明(宇都宮ブリッツェン)3周目の山岳賞を獲得した堀孝明(宇都宮ブリッツェン) photo:Makoto.AYANO

6周目の山岳賞は井上和郎(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)が獲得6周目の山岳賞は井上和郎(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)が獲得 photo:Hideaki TAKAGI
レースが動いたのは残り2周を切ってから。「昨日のミーティングで終盤にチームで仕掛けると決めていた。アタックが掛かったときに後手に回らないようにした」と増田成幸が振り返る通り、コントロールライン通過と同時に宇都宮ブリッツェンが組織立ったペースアップを敢行する。

昨年同様の動きで逃げグループは飲み込まれ、会場は大きく盛り上がったがしかし、TOJ覇者オスカル・プジョル(スペイン、チーム右京)が切れ味鋭いアタックで被せていく。

プジョルの加速で集団は形を無くし、クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)とロバート・パワー(オーストラリア)のオリカ・バイクエクスチェンジコンビとシモーネ・ペティッリ(イタリア、ランプレ・メリダ)が合流する。バラバラと追走するメンバーに対して数秒差でKOMを通過したが、決定的な逃げに繋げるにはリードが足りなかった。

古賀志林道を登る新城幸也(ランプレ・メリダ)古賀志林道を登る新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsuji鈴木譲を先頭に宇都宮ブリッツェンが一団となってペースを上げる鈴木譲を先頭に宇都宮ブリッツェンが一団となってペースを上げる photo:Makoto.AYANO


アタックを開始したジャスパー・ストゥイフェン(ベルギー、トレック・セガフレード)アタックを開始したジャスパー・ストゥイフェン(ベルギー、トレック・セガフレード) photo:Makoto.AYANOテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング)がアタックグループを牽引するテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング)がアタックグループを牽引する photo:Makoto.AYANO


マヌエル・クインツァート(イタリア、BMCレーシング)が追走集団からアタックするマヌエル・クインツァート(イタリア、BMCレーシング)が追走集団からアタックする photo:Makoto.AYANOピエールパオロ・デネグリ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)がアタックグループの先頭に立つピエールパオロ・デネグリ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)がアタックグループの先頭に立つ photo:Makoto.AYANO


続いてピエルパオロ・デネグリ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)が田野町交差点後の登りでペースアップしたが、集団を引き伸ばすのみに留まる。残り1周回に入る直前でマヌエル・クインツィアート(イタリア、BMCレーシング)がアタックし、新城幸也(ランプレ・メリダ)らが追従したが、やはり抜け出しは決まらない。

ブリッツェン雨澤&増田、ブリヂストン・アンカー西薗&初山、そして新城と5名の日本人選手を含む26名が一塊となって最終周回の鐘を聞いた。

コントロールライン手前で抜け出したペティッリをキャッチすると、クリストファー・シェルピング(ノルウェー、キャノンデール・ドラパック)がダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア)を連れて猛然と加速。登りで解き放たれたヴィッレッラは渾身のアタックで追いすがるユールイェンセンとマヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・メリダ)らを引き千切り独走に持ち込んだ。

最終周回突入と同時にアタックしたシモーネ・ペティッリ(イタリア、ランプレ・メリダ)最終周回突入と同時にアタックしたシモーネ・ペティッリ(イタリア、ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsujiクリストファー・シェルピングにアシストされてアタックに備えるダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック)が古賀志林道の登り口からアタックするクリストファー・シェルピングにアシストされてアタックに備えるダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック)が古賀志林道の登り口からアタックする photo:Makoto.AYANO

独走で残り3kmのアップダウンをこなすダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック)独走で残り3kmのアップダウンをこなすダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック) photo:Makoto.AYANO
このアタックで集団は割れ、逃げるヴィッレッラをプジョル&ベンジャミン・プラデス(スペイン)のチーム右京コンビやパワーズとユールイェンセン(オリカ・バイクエクスチェンジ)、モーリ、アレックス・ピータース(イギリス、チームスカイ)らが追走する形に。KOMでのヴィッレッラのリードは十分と言えなかったが、複数メンバー優位な下りと平坦でもむしろタイム差を稼ぎ出す。

10月1日に開催されたロンバルディアで5位に入ったヴィッレッラの実力は本物だった。

最後の短い登りでもその勢いは衰えず、十分なリードを守ったまま大観衆が迎えるフィニッシュエリアへとヴィッレッラは到達。パワーの単独追走は6秒届かず、ヴィッレッラのキャリア初勝利がここ宇都宮で決まった。

独走でフィニッシュするダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック)独走でフィニッシュするダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック) photo:Kei Tsuji
チームメイトと勝利を喜ぶダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック)チームメイトと勝利を喜ぶダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック) photo:Kei Tsuji現役最終レースを終えたシャビエル・ザンディオ(スペイン、チームスカイ)現役最終レースを終えたシャビエル・ザンディオ(スペイン、チームスカイ) photo:Kei Tsuji

左から2位クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、オリカ・バイクエクスチェンジ)、1位ダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック)、3位ロバート・パワー(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)左から2位クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、オリカ・バイクエクスチェンジ)、1位ダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック)、3位ロバート・パワー(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ) photo:Kei Tsuji
「先頭集団に最終盤まで残ってアタックするのが優勝できる唯一の方法だった。1週間前にコースマップを見て、仕掛けるなら古賀志しかないと考えていた。最後はとにかく踏み続けた」と、たどたどしい英語でインタビューに答えたヴィッレッラは1991年生まれの25歳。

「この2年間は右膝の怪我で、難しい時間を過ごした。今シーズンもジロ・デ・イタリア出場を逃したが、ツール・ド・ポローニュから調子が上向き、ブエルタに出場。ロンバルディアではまぁまぁの結果で終えられた。そして、このジャパンカップで勝つことができた。現在とても調子が良いだけに、これでシーズンが終わってしまうのが残念だ。」と加えた。

スリップストリームスポーツとしては2014年のネイサン・ハース(オーストラリア、当時ガーミン・シャープ)に続く勝利。アジア選手最高順位は43秒遅れの9位に入った新城だった。全日本チャンピオンの初山翔(ブリヂストン・アンカー)は16位、増田は19位に入った。

山岳賞を獲得した堀孝明(宇都宮ブリッツェン)、井上和郎(ブリヂストンアンカー)、マルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム)山岳賞を獲得した堀孝明(宇都宮ブリッツェン)、井上和郎(ブリヂストンアンカー)、マルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム) photo:Kei Tsujiアジアンライダー賞を獲得した新城幸也(ランプレ・メリダ)アジアンライダー賞を獲得した新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsuji




ジャパンカップ2016結果
1位 ダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック) 3h46’43”
2位 クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、オリカ・バイクエクスチェンジ) +06”
3位 ロバート・パワー(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)
4位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・メリダ) +14”
5位 オスカル・プジョル(スペイン、チーム右京)
6位 アレックス・ピータース(イギリス、チームスカイ)
7位 ベンジャミン・プラデス(スペイン、チーム右京)
8位 ハビエル・メヒヤス(スペイン、チーム・ノボ ノルディスク) +17”
9位 新城幸也(ランプレ・メリダ) +43”
10位 ジョセフ・ロスコプフ(アメリカ、BMCレーシング)
11位 キャメロン・ベイリー (オーストラリア、アタッキ・チーム・グスト)
12位 トマ・ルバ(フランス、ブリヂストン・アンカー) +45”
13位 テイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング) +48”
14位 マシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ) +1’19”
15位 ピエルパオロ・デネグリ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)
16位 初山翔(ブリヂストン・アンカー)
17位 ジャイ・クロフォード(オーストラリア、キナンサイクリングチーム)
18位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)
19位 ヤスパー・ストゥイフェン(ベルギー、トレック・セガフレード)
20位 イウリィ・フィロージ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)

山岳賞
1回目 堀孝明(宇都宮ブリッツェン)
2回目 井上和郎(ブリヂストン・アンカー)
3回目 マルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム)
4回目 マルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム)

アジア最優秀選手賞
新城幸也(ランプレ・メリダ)

U23最優秀選手賞
ロバート・パワー(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)

text:So.Isobe
photo:Makoto.Ayano,Hideaki TAKAGI, Kei Tsuji