2010年 クリテリウム

クリテリウム初代王者はトーマス・パルマー 別府史之の逃げに大観衆が沸く

会場放送の解説を担当した栗村修氏会場放送の解説を担当した栗村修氏 photo:Kei Tsujiジャパンカップ本戦を翌日に控えた2010年10月23日、宇都宮市中心部を貫く宇都宮市大通りでクリテリウムレースが初開催された。大観衆が見守る中、スペシャルチームで出場した別府史之(レディオシャック)が逃げてスプリント賞を獲得。初代クリテリウム王者の座はトーマス・パルマー(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)が獲得した。


今年で開催19回目を迎えるジャパンカップ初の試みとして、土曜日に開催されたクリテリウムレース。JR宇都宮駅前から西に伸びる宇都宮市大通りを規制し、1.55kmの特別周回コースが作られた。

これほどまでに都会のど真ん中で繰り広げられるクリテリウムレースは日本では稀な存在。目抜き通りの交通を完全にシャットアウトする大胆な試みは、ジャパンカップが宇都宮市に定着してきているからこそ可能になった。トップ選手の走りを一目見ようと、沿道には何重もの人垣が出来た。公式発表によれば、この日の観客動員数は約3万人にのぼった。

観客が詰めかけたコースを進む観客が詰めかけたコースを進む photo:Kei Tsuji出場するのは、日曜日のジャパンカップ本戦に出場する14チームに、「サーヴェロ・レディオシャック・ケイリンスペシャルチーム」を加えた15チーム・74名の選手たち。
この"スペシャルチーム"からは、別府史之(レディオシャック)とオスカル・プジョル(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)の他、競輪選手の村上義弘、渡邉一成、脇本雄太の3名が出場。記念すべき初開催のクリテリウムに花を添えた。

レースは1.55kmの周回コースを23周。最初の3周はパレード走行で観客たちへの顔見せ走行となる。ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)を始めとするトップ選手たちの登場に、宇都宮市大通りは歓声に包まれた。

逃げグループを形成する別府史之(レディオシャック)、ヨナス・ヨルゲンセン(デンマーク、サクソバンク)、ジョゼフ・ルイス(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)逃げグループを形成する別府史之(レディオシャック)、ヨナス・ヨルゲンセン(デンマーク、サクソバンク)、ジョゼフ・ルイス(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ) photo:Kei Tsuji正式なスタート後、アタックを掛けてすぐに飛び出したのはスペシャルチームの別府史之。レディオシャックのジャージを着て初めて日本を走るフミの飛び出しに、沿道の観客が沸く。遅れてジョゼフ・ルイス(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)とヨナス・ヨルゲンセン(デンマーク、サクソバンク)の2名が合流し、3名の逃げグループが形成された。

しばらくは集団が落ち着かず、綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)らが追走する動きを見せたが、集団スプリントに持ち込みたいカチューシャやBboxブイグテレコム、チームミルラムがコントロールを始めると集団は沈静化。タイム差が20秒を推移しながら、選手たちは周回を重ねた。


積極的な走りを見せた別府史之(レディオシャック)積極的な走りを見せた別府史之(レディオシャック) photo:Kei Tsuji

徐々に集団のポジションを上げるロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)徐々に集団のポジションを上げるロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ) photo:Kei Tsuji5周毎に設定されたスプリント賞は、それぞれルイス(5周目)、ヨルゲンセン(10周目)が獲得。最後のスプリントポイント(15周目)が近づくと、メイン集団は徐々にペースアップ。スプリントポイントを先頭通過したフミはそのまま単独で踏み始めたが、スプリンターチームが牽くメイン集団に捉えられた。

続いて福島晋一(クムサン・ジンセン・アジア)や西谷泰治(愛三工業レーシングチーム)が単発的な動きを見せたが、決定的なリードを奪えないまま吸収。縦に長く伸びる集団は、ハイスピードで最終周回に突入した。

最終周回でアタックした村上純平(シマノレーシング)に新城幸也(Bboxブイグテレコム)が反応するシーンも見られたが、集団の勢いには敵わず吸収されてしまう。

ラスト1kmを切ると、グスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)とトーマス・パルマー(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)がアタック。これにデニス・ガリムジャノフ(ロシア、カチューシャ)が追いつき、3名が少し先行して最終コーナーを抜ける。

宇都宮大通りを駆け抜ける新城幸也(Bboxブイグテレコム)宇都宮大通りを駆け抜ける新城幸也(Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji村上純平(シマノレーシング)のアタックに新城幸也(Bboxブイグテレコム)が反応村上純平(シマノレーシング)のアタックに新城幸也(Bboxブイグテレコム)が反応 photo:Kei Tsuji

スプリンターチームが躊躇した一瞬の隙を突いて、メイン集団との距離を広げる3名。結局メイン集団は3名を追いきれず、先に仕掛けたラーションを勢い良く抜き去ったパルマーが勝利。僅か3秒遅れのメイン集団は、下馬評通りマキュアン先頭でゴールラインを駆け抜けた。

現在20歳のパルマーはトラック競技出身。ジュニアのトラック世界選手権では、団体追い抜き、マディソン、1kmTTでチャンピオンに輝いている。短距離ハイスピード走行に長けており、1.1kmの距離で行なわれた2009年のツール・ド・おきなわ第1ステージ・個人タイムトライアルで優勝している。

3名のスプリント勝負を制したトーマス・パルマー(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)3名のスプリント勝負を制したトーマス・パルマー(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ) photo:Kei Tsuji
「こんな大観衆が集まったレースで勝つのは初めてなんだ。チームメイトが逃げていたので、チームは有利にレースを展開することが出来た。ハイスピードなレースだったからアタックするのは難しかったけど、良いタイミングで飛び出せたんだ。コンディションが良かったので、最後まで追い込んで先頭でゴール出来たよ」。世界トップチームが集まる中、見事勝利を手にしたパルマーは満面の笑みでそう語る。

「日曜日のコースは僕向きじゃない。今日サポートしてくれたチームメイトたちに恩返ししたい。ピーター・マクドナルドのために走るよ」と語るパルマー。今年のジャパンカップの出場チーム枠に最後の最後で滑り込んだドラパック・ポルシェが、大一番で存在感を見せた。

ドラパック・ポルシェの選手たちと話すロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)ドラパック・ポルシェの選手たちと話すロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ) photo:Kei Tsujiレース前に「土曜日こそ自分のためのレースだ」と語っていた注目のマキュアンは4位。「レース終盤までカチューシャは状況をコントロール出来ていた。特に(アレクサンドル)プリウスチンの働きは素晴らしかったと思う。でも最終周回に入って激しいアタック合戦が続いた。2人(パルマーとラーション)が飛び出したので、すかさずチームメイトのデニス(ガリムジャノフ)が反応。そこから他のチームが集団を牽くと予想していたのに、どのチームも動かない。だから3人に追いつかなかった。残念だ。でもデニスが上位に絡んで良かったよ。それに、集団の先頭でゴールすることも出来た」。表彰台に上ることは出来なかったが、その表情は明るい。

マキュアンは続ける。「とにかくファンタスティックなレースだった。昨日(金曜日)の時点でファンの多さに充分驚かされたけど、今日は更に観客の多さに度肝を抜かれた。パレード走行で大通りに入った時、チームメイトたちと『なんだこれは!』と言いながら笑い合ったよ。こんな素敵なクリテリウムを走れたことを誇りに思う」。

表彰台、左から2位デニス・ガリムジャノフ(ロシア、カチューシャ)、優勝トーマス・パルマー(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)、3位グスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)表彰台、左から2位デニス・ガリムジャノフ(ロシア、カチューシャ)、優勝トーマス・パルマー(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)、3位グスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク) photo:Kei Tsuji日本人最高位をマークしたのは、全日本チャンピオンジャージを着る宮澤崇史(チームNIPPO)。地元チームとして宇都宮の期待を背負う辻善光(宇都宮ブリッツェン)が9位に食い込んだ。ユキヤは20位でレースを終えている。

この日最も観客を沸かせたのは、間違いなく別府史之の逃げだ。フミは時折笑顔を見せる余裕の走りで、レースをリードし続けた。

「本当にパリのシャンゼリゼのようでした。とにかくすごく楽しかった」。そう笑顔で語るフミは、3つ目のスプリント賞を獲得。久々の日本のレースを存分に満喫した様子だ。


ジャパンカップ2010クリテリウム結果
1位 トーマス・パルマー(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)      42'20"
2位 デニス・ガリムジャノフ(ロシア、カチューシャ)
3位 グスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)
4位 ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)           +02"
5位 アンドレ・ステーンセン(デンマーク、サクソバンク)
6位 クラウディオ・クチノッタ(イタリア、デローザ・スタックプラスティック)
7位 宮澤崇史(TEAM NIPPO)
8位 プーチョン・サイウドンシン(タイ、クムサン・ジンセン・アジア)
9位 辻善光(宇都宮ブリッツェン)
10位 デーヴィッド・ペル(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)

text&photo:Kei Tsuji/cyclowired.jp