合計21チームから120名の選手たちがホームストレートに並び、10時ちょうどに佐藤栄一市長が打ち鳴らした号砲によってレースがスタート。最前列から飛び出した西尾憲人(那須ブラーゼン)がファーストアタックを繰り出した。
地元の大声援を受けて古賀志林道を駆け上がった西尾に続き、前全日本王者山本元喜(キナンサイクリングチーム)らが積極的に仕掛けながら3時間半超の戦いが動き出す。序盤から一列棒状のハイペースで進み、ハーフウェットの古賀志林道の下りでは集団が大きく3つに分断されてしまう。それゆえワールドチーム勢を筆頭に力のある選手たちが前方で展開する状況が続いた。
逃げグループ形成に向けて積極的に動いたのは、9月のJBCF南魚沼ロードで120km逃げ切りを演じていた43歳のフランシスコ・マンセボ(スペイン、マトリックスパワータグ)だった。2周目のKOM通過後に単独で逃げ、これをワールドチーム勢が追いかけたことで8名のエスケープが生まれる。
エスケープした8名
ロバート・スタナード(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)
ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・メリダ)
ジェームス・ウィーラン(オーストラリア、EFエデュケーションファースト)
クーン・ボウマン(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)
ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)
ルカ・ドゥロシ(フランス、デルコ・マルセイユ・プロヴァンス)
マルコ・カノラ(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)
フランシスコ・マンセボ(スペイン、マトリックスパワータグ)
今年のジロ・デ・イタリアでステージ1勝とマリアアッズーラ(山岳賞)獲得、続くツール・ド・フランスではマイヨジョーヌを途中着用したチッコーネや、大雨の2017年ジャパンカップを制した経験を持つカノラ、葛飾北斎の絵をモチーフにしたスペシャルバイクを駆るボウマンなど、強豪ばかりで構成されたエスケープ。全ワールドチームがメンバーを乗せたため、宇都宮ブリッツェンやチーム右京、チームブリヂストンサイクリングなど国内コンチネンタルチーム勢がメイン集団を牽く、普段とは逆の展開が繰り広げられた。
台風19号の爪痕と大会関係者の尽力の跡が残るコース上で、逃げとメイン集団のタイム差は1分半ほどで推移した。このジャパンカップで引退するテイラー・フィニー(アメリカ、EFエデュケーションファースト)や雨乞竜己(キナンサイクリングチーム)は序盤の展開の中で遅れ、中盤までに現役生活にピリオドを打っている。
3周おきに用意された山岳賞で、初回(3周目)はボウマンが、2回目(6周目)は逃げのきっかけを作ったマンセボが、3回目(9周目)は再びボウマンが獲得。この周回で逃げグループからウィーランが遅れを取った。
レースが動いたのは11周目だった。国内チームに代わった海外勢が一気にメイン集団を活性化させ、中でもユンボ・ヴィズマが古賀志林道で組織的なペースアップで逃げる7名との距離を一気に縮め、下りを終えた県道区間で最後まで粘っていたチッコーネとドゥロシをキャッチ。当初逃げ切りの可能性も匂わせた7名のエスケープはフィニッシュまで30kmを残して潰えた。
20名程度に絞り込まれる中、フルメンバーを残すことに成功したのはユンボ・ヴィズマだった。2018年ツール総合5位のステフェン・クライスヴァイク(オランダ)が逃げ吸収と共にカウンターで飛び出し、トレック・セガフレードのエースを担ったバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)がクライスヴァイクを捉えるも、続けざまにセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィズマ)がアタック。黄色いジャージがレースを掌握した。
先頭グループには「逃げたカノラのおかげで脚を貯め、ユンボのペースアップ時も伊藤(雅和)さんが良い位置まで引き上げてくれたんです」と言う中根英登(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)と、来季デルコ・マルセイユ・プロヴァンスへの移籍を発表したばかりの岡篤志(宇都宮ブリッツェン)も食い下がった。
12周目の古賀志林道下りでは来期EFへの移籍が決まっているニールソン・ポーレス(アメリカ、ユンボ・ヴィズマ)がカウンターで先行したが、チッコーネにアシストされたモレマが13周目の古賀志林道で吸収し、アタック。ここに食らいついたのはウッズのみで、シーズン終盤のイタリアレースを制した2人の加速によって、これまで優位に運んでいたユンボ勢は崩壊してしまう。マンセボや中根、ディオン・スミス(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)、クスとローバート・ヘーシンク(共にユンボ・ヴィズマ)が追走グループを形成したが、先頭を突き進む2人との間隔は広がるばかりだった。
先行するモレマとウッズは、後続グループに対して28秒差で最終周回の鐘を聞く。最後の登りでウッズが先行するもモレマが粘り、互いに見合いながら、サプライズアタックを仕掛けることなく周回後半区間をこなし、残り1kmアーチを通過。ジャパンカップロードレースの勝敗は、昨年大会同様2名によるゴール勝負に委ねられた。
森林公園の入り口手前で、ウッズの背後からスプリントしたモレマ。ウッズも反応したが、1週間前のイル・ロンバルディアを独走で制したモレマが伸びた。勝負を諦めるライバルを確認したモレマが、満面の笑みで2015年に続くジャパンカップ2勝目を挙げた。
これによりトレックは今大会のクリテリウムとロードレースを連勝。これも別府史之とモレマで制した2015年以来となる(当時はトレックファクトリーレーシング)。
「ラスト2周の古賀志林道でアタックすると判断した。2015年に勝っているし、コースも良く分かっていたよ。シーズン最後のレースで良い結果を出せると思っていたし、調子も良かったので楽しみにしていたんだ」と語るモレマ。ツール以降に出場した11レース中、8レースでトップ10入り(うち欧州選手権と世界選手権ミックスリレーTTとロンバルディアで勝利)した調子の良さを見せつける結果となった。
最後の古賀志で遅れたものの、残り1kmで復帰し会場を沸かせた中根を含む4名の3位争いで先着したのはスミス。「最後は完全に脚を攣っていたので3位争いに加われなかった」と言う中根はアジア選手最上位となる6位に入り、4分33秒遅れの新城幸也(バーレーン・メリダ)が13位、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)が14位となった。
ジャパンカップ結果
1位 バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) 3時間41分13秒
2位 マイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト) +1秒
3位 ディオン・スミス(ミッチェルトン・スコット) +44秒
4位 フランシスコ・マンセボ(スペイン、マトリックスパワータグ)
5位 セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィズマ)
6位 中根英登(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) +52秒
7位 ニールソン・ポーレス(アメリカ、ユンボ・ヴィズマ) +2分9秒
8位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)
9位 ケニー・モリー(ベルギー、ワロニー・ブリュッセル) +2分31秒
10位 オールイス・アウラール(スペイン、マトリックスパワータグ)
text: So Isobe
photo: Kei Tsuji. Makoto AYANO