宇都宮森林公園に詰めかけた観客は過去最高の8万人。秋晴れの古賀志の山を舞台にした第23回ジャパンカップは「日本が本当に好き」と語るネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ)の自身2度目の勝利に終わった。
午前10時、79名の選手たちがスタート photo:Kei Tsuji
全日本チャンピオンの佐野淳哉(日本ナショナルチーム)と宮澤崇史(ヴィーニファンティーニNIPPO) photo:Kei Tsuji
現役引退レースを迎えたカルステン・クローン(オランダ、ティンコフ・サクソ) photo:Kei Tsuji
逃げグループを形成するダレン・ラプトーン(オーストラリア、ドラパック)やホセ・ビセンテ(チーム右京) photo:Kei Tsuji23年目のジャパンカップ。長年この宇都宮での闘いを見てきた地元の観客が「これほど人が集まるのは初めてだ」と舌を巻くほどの観客がコースの沿道を埋める。公式発表によると観客数は過去最多の8万人。好天に恵まれたことが集客に拍車をかけた。
午前10時のスタートを前に宮澤崇史(ヴィーニファンティーニNIPPO)が現役引退を発表。ベテランのカルステン・クローン(オランダ、ティンコフ・サクソ)にとっても現役最後のレースになるなど、プロトンの中には様々な感情が入り交じる。
チームプレゼンテーションで「逃げる」宣言をしていた土井雪広(チーム右京)や増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、佐野淳哉(日本ナショナルチーム)が1周目から積極的に動く。アタックと吸収が繰り返され、1周目を終える頃には先頭4名の飛び出しが決まった。
ダレン・ラプトーン(オーストラリア、ドラパック)、阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)、ホセ・ビセンテ(チーム右京)、山本元喜(ヴィーニファンティーニNIPPO)という4名によるエスケープ。2周目にかけて佐野や内野直也(日本ナショナルチーム)が追撃するシーンも見られたが、先頭に追いつくことなく集団に引き戻された。
鶴カントリーの登りを進む逃げグループ photo:Kei Tsuji
ガーミン・シャープやチームスカイを先頭に鶴カントリーの登りを進む photo:Kei Tsuji
3周目にタイム差が最大6分30秒まで広がったところでチームスカイ、ガーミン・シャープ、ティンコフ・サクソの3チームがコントロールを開始。タイム差は周回毎に着々と縮まり、レース中盤の5周目の時点で4分に。
ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)らが淡々と集団を引くその前方では、阿部(3周目)、ビセンテ(6周目)、山本(9周目)がそれぞれ山岳賞を獲得する。レースが終盤戦に突入する頃、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)の到着によって会場のボルテージは更に上がった。
鶴カントリーの登りを進むプロトン photo:Kei Tsuji
集団先頭で周回をこなすベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
レースを観戦するファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji
ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)を先頭に古賀志林道を進む photo:Kei Tsuji
レースが動いたのは残り2周を切ってから。逃げグループから48秒差で残り2周に入ったメイン集団では宮澤のアタックを切っ掛けに活性化する。単独で飛び出したヤン・ポランク(スロベニア、ランプレ・メリダ)がエスケープの最終サバイバーであるビセンテにジョイン。しかしメイン集団を引き離すには至らなかった。
ビセンテとポランクを飲み込んだ20名弱の集団が最終周回に差し掛かる。例年よりもずっと人数の多い状態で挑む最後の古賀志林道。標高差185mを一気に駆け上がる登りで動いたのはモレーノ・モゼール(イタリア、キャノンデール)だった。
古賀志林道の頂上を先頭でクリアし、そのまま独走に持ち込んだモゼール。テクニカルな下り区間で飛び出したマヌエーレ・ボアーロ(イタリア、ティンコフ・サクソ)の単独追走は届かず、10名の追走グループに対してモゼールが15秒のリードをもって残り5kmを駆け抜ける。
9周目の古賀志林道を進む逃げグループ photo:Kei Tsuji
残り2周の古賀志林道でアタックする宮澤崇史(ヴィーニファンティーニNIPPO) photo:Kei Tsuji
ツアー・オブ・北京以降体調を崩していたダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)が献身的な走りで追走を率い、ここにティンコフ・サクソのクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)とミカエル・アンデルセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ)も合流。
ペースを崩さず逃げ続けたモゼールだったが、県道から田野の交差点を過ぎ、萩のアップダウン区間でリードを失ってしまう。残り1kmを切ったところで先頭モゼールは遂に吸収。9名によるゴールスプリントが始まった。
リードアウトを組むランプレ・メリダのポランクとヴァレリオ・コンティ(イタリア)の後ろから最終コーナーで真っ先に仕掛けたのはハース。即座に反応したエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)と、自分のタイミングでスプリントを開始するグレガ・ボーレ(スロベニア、ヴィーニファンティーニNIPPO)が追撃する形で最終ストレートを駆け抜けた。
ボアッソンハーゲンとボーレの追い上げを振り切って、右側ラインをハースが突き進む。そして3人が同時にハンドルを投げ込んでフィニッシュする。前日のクリテリウムに続く僅差のスプリント勝負を制したのはガーミンのブルージャージ。ハースだった。
先頭で最終周回を走るヘイデン・ロールストン(ニュージーランド、トレックファクトリーレーシング)やダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ) photo:Kei Tsuji
最終スプリントを繰り広げるネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ)やエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
僅差のスプリントを制したネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ) photo:Kei Tsuji
「もうこれ以上のチームワークは考えられない。チームワークのお手本のような走りだった」。遅れてフィニッシュしたマーティンを抱き寄せてハースは喜びを爆発させる。
2011年大会に続く2度目のジャパンカップ制覇。3年前の勝利がUCIプロチーム入りに繋がったという経緯もあり、ハースはジャパンカップと日本への愛を表彰台で語った。「宇都宮は特別な場所なんだ。日本が好きで、素晴らしいファンがいつもレースに詰めかけてくれる。また来年も出場したい。また戻ってくるよ」。
ガーミン・シャープは大会連覇を達成(前年ロジャース失格によりバウアー優勝)。前日のクリテリウムに続いて再びオーストラリア人選手が表彰台の真ん中に立った。UCIプロチームが上位を独占する中、UCIコンチネンタルチームのヴィーニファンティーニNIPPOのボーレが3位に入っている。日本人最高位は48秒遅れでフィニッシュした別府史之(トレックファクトリーレーシング)の14位。同タイムで増田成幸(宇都宮ブリッツェン)が15位に入った。
マーティンと抱き合うネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ) photo:Kei Tsuji
アイゼルらに拍手されてフィニッシュする宮澤崇史(ヴィーニファンティーニNIPPO) photo:Kei Tsuji
ジャパンカップ2014表彰台 photo:Kei Tsuji
山岳賞を獲得した3名 photo:Kei Tsuji
アジアンライダー賞を獲得した別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji
ジャパンカップ2014結果
1位 ネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ) 4h06'48"
2位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)
3位 グレガ・ボーレ(スロベニア、ヴィーニファンティーニNIPPO)
4位 ミカエル・アンデルセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ)
5位 ジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング)
6位 ヴァレリオ・コンティ(イタリア、ランプレ・メリダ)
7位 ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、キャノンデール)
8位 モレーノ・モゼール(イタリア、キャノンデール)
9位 ヤン・ポランク(スロベニア、ランプレ・メリダ) +05"
10位 クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ) +18"
11位 マヌエーレ・ボアーロ(イタリア、ティンコフ・サクソ) +25"
12位 ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ) +38"
13位 トマ・ルバ(フランス、ブリヂストンアンカー) +48"
14位 別府史之(日本、トレックファクトリーレーシング)
15位 増田成幸(日本、宇都宮ブリッツェン)
16位 スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、ガーミン・シャープ) +56"
17位 クリストファー・サットン(オーストラリア、チームスカイ)
18位 リカルド・ガルシア(スペイン、チーム右京)
19位 ウェズリー・サルツバーガー(オーストラリア、ドラパック)
20位 パオロ・ロンゴボルギーニ(イタリア、キャノンデール)
山岳賞
3周目 阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)
6周目 ホセ・ビセンテ(チーム右京)
9周目 山本元喜(ヴィーニファンティーニNIPPO)
text&photo:Kei Tsuji
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チームプレゼンテーションで「逃げる」宣言をしていた土井雪広(チーム右京)や増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、佐野淳哉(日本ナショナルチーム)が1周目から積極的に動く。アタックと吸収が繰り返され、1周目を終える頃には先頭4名の飛び出しが決まった。
ダレン・ラプトーン(オーストラリア、ドラパック)、阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)、ホセ・ビセンテ(チーム右京)、山本元喜(ヴィーニファンティーニNIPPO)という4名によるエスケープ。2周目にかけて佐野や内野直也(日本ナショナルチーム)が追撃するシーンも見られたが、先頭に追いつくことなく集団に引き戻された。
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ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)らが淡々と集団を引くその前方では、阿部(3周目)、ビセンテ(6周目)、山本(9周目)がそれぞれ山岳賞を獲得する。レースが終盤戦に突入する頃、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)の到着によって会場のボルテージは更に上がった。
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ビセンテとポランクを飲み込んだ20名弱の集団が最終周回に差し掛かる。例年よりもずっと人数の多い状態で挑む最後の古賀志林道。標高差185mを一気に駆け上がる登りで動いたのはモレーノ・モゼール(イタリア、キャノンデール)だった。
古賀志林道の頂上を先頭でクリアし、そのまま独走に持ち込んだモゼール。テクニカルな下り区間で飛び出したマヌエーレ・ボアーロ(イタリア、ティンコフ・サクソ)の単独追走は届かず、10名の追走グループに対してモゼールが15秒のリードをもって残り5kmを駆け抜ける。
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ツアー・オブ・北京以降体調を崩していたダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)が献身的な走りで追走を率い、ここにティンコフ・サクソのクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)とミカエル・アンデルセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ)も合流。
ペースを崩さず逃げ続けたモゼールだったが、県道から田野の交差点を過ぎ、萩のアップダウン区間でリードを失ってしまう。残り1kmを切ったところで先頭モゼールは遂に吸収。9名によるゴールスプリントが始まった。
リードアウトを組むランプレ・メリダのポランクとヴァレリオ・コンティ(イタリア)の後ろから最終コーナーで真っ先に仕掛けたのはハース。即座に反応したエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)と、自分のタイミングでスプリントを開始するグレガ・ボーレ(スロベニア、ヴィーニファンティーニNIPPO)が追撃する形で最終ストレートを駆け抜けた。
ボアッソンハーゲンとボーレの追い上げを振り切って、右側ラインをハースが突き進む。そして3人が同時にハンドルを投げ込んでフィニッシュする。前日のクリテリウムに続く僅差のスプリント勝負を制したのはガーミンのブルージャージ。ハースだった。
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「もうこれ以上のチームワークは考えられない。チームワークのお手本のような走りだった」。遅れてフィニッシュしたマーティンを抱き寄せてハースは喜びを爆発させる。
2011年大会に続く2度目のジャパンカップ制覇。3年前の勝利がUCIプロチーム入りに繋がったという経緯もあり、ハースはジャパンカップと日本への愛を表彰台で語った。「宇都宮は特別な場所なんだ。日本が好きで、素晴らしいファンがいつもレースに詰めかけてくれる。また来年も出場したい。また戻ってくるよ」。
ガーミン・シャープは大会連覇を達成(前年ロジャース失格によりバウアー優勝)。前日のクリテリウムに続いて再びオーストラリア人選手が表彰台の真ん中に立った。UCIプロチームが上位を独占する中、UCIコンチネンタルチームのヴィーニファンティーニNIPPOのボーレが3位に入っている。日本人最高位は48秒遅れでフィニッシュした別府史之(トレックファクトリーレーシング)の14位。同タイムで増田成幸(宇都宮ブリッツェン)が15位に入った。
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ジャパンカップ2014結果
1位 ネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ) 4h06'48"
2位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)
3位 グレガ・ボーレ(スロベニア、ヴィーニファンティーニNIPPO)
4位 ミカエル・アンデルセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ)
5位 ジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング)
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7位 ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、キャノンデール)
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13位 トマ・ルバ(フランス、ブリヂストンアンカー) +48"
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19位 ウェズリー・サルツバーガー(オーストラリア、ドラパック)
20位 パオロ・ロンゴボルギーニ(イタリア、キャノンデール)
山岳賞
3周目 阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)
6周目 ホセ・ビセンテ(チーム右京)
9周目 山本元喜(ヴィーニファンティーニNIPPO)
text&photo:Kei Tsuji