「チームメイトの働きに応えないわけにはいかなかった」という別府史之(トレック・セガフレード)が渾身のスプリントを披露。ジャパンカップ本戦を翌日に控えた10月21日、宇都宮大通りが日本人による史上初のクリテリウム連覇に湧いた。
池上町の交差点近くまで延長されたコース西側のUターン photo:Kei Tsuji
観客を盛り上げるBMCレーシング photo:Makoto.AYANO
ファビアン・カンチェラーラに花束を贈呈した佐藤栄一宇都宮市長(花束はヒューマンアカデミー株式会社提供) photo:Makoto.AYANO
25回大会を記念してコースが西側に延長されたジャパンカップクリテリウム。フィニッシュ地点はバンバひろばに変わりないが、西側のUターンが本町交差点から池上町交差点まで約350m延長。これにより全長2.25kmとなった周回コースを15周する合計38.25kmで行われることに。なお、スプリント賞は4周、8周、12周目のフィニッシュ地点に設定されている。
宇都宮市役所をパレードスタート後、宇都宮市の佐藤栄一市長や「弱虫ペダル」作者の渡辺航さんを先頭に大通りに登場した選手たち。2周のパレード走行後には、この土曜日のクリテリウムをもって現役を引退するファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)への花束贈呈が行われた。
宇都宮は気温18度の曇り空。スタート前には寒いそぶりを見せていた選手たちも、40分強のハイスピードレースが始まるとすぐに活気付く。序盤はアタックに次ぐアタックで、新城幸也(ランプレ・メリダ)が積極的に動くシーンも。
BMCレーシングが集団を率いて逃げを追う photo:Kei Tsuji
アタックを仕掛ける岡本隼(日本ナショナルチーム) photo:Kei Tsuji
宇都宮市駅前大通を高速で駆け抜けるクリテリウムの集団 photo:Makoto.AYANO
駅前大通のコーナーを折り返す集団 photo:Makoto.AYANO
すると、スプリント賞が設定された4周目に新城らが抜け出し、ここに今シーズンをもって引退する井上和郎(ブリヂストンアンカー)がジョイン。「元々スプリント賞を狙っていたわけではなくて、(新城)幸也が先行したから付いていこうと思って追いついたらチャンスが回ってきた」という井上がスプリント賞を先頭通過した。
その後もアタックと吸収が断続的に繰り広げられる。このジャパンカップにビッグスプリンターを連れてきていないトップチームもアタック合戦に加わったことで状況が安定せず、決定的な動きが生まれないまま周回板の数字が減っていった。
レース中盤に抜け出したのはジョセフ・ロスコフ(アメリカ、BMCレーシング)とベンジャミン・ヒル(オーストラリア、チームアタッキグスト)の2人。
逃げるジョセフ・ロスコフ(アメリカ、BMCレーシング)とベンジャミン・ヒル(オーストラリア、チームアタッキグスト) photo:Kei Tsuji
ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)自ら追走する photo:Kei Tsuji
トレック・セガフレードのイエロートレインが宇都宮大通りを行く photo:Kei Tsuji
「BMCレーシングとしては、アタックを仕掛けてレースを動かす作戦だった。クインツィアートが吸収されたタイミングでアタック。コース的にも人数的にも有利な逃げとは言えなかったけど、とにかく大歓声に包まれた大通りを先頭で走るのはとても良い気分だった」と、8周目と12周目のスプリント賞を獲得したロスコフは振り返る。
メイン集団を率いて逃げるロスコフとヒルを追ったのは、蛍光イエローのジャージに身を包んだトレック・セガフレードだった。ファビアン・カンチェラーラ(スイス)、グレゴリー・ラスト(スイス)、バウケ・モレマ(オランダ)の3名が先頭でローテーションを回し、逃げとのタイム差を射程圏内に抑え込む。
タイム差が数秒になった残り3周でメイン集団ではカウンターアタックが勃発し、すぐさまロスコフとヒルは吸収。クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、オリカ・バイクエクスチェンジ)やテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング)らが先行を試みるも決まらない。
チームメイトの吸収とともにカウンターアタックするテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji
逃げを封じ込めるファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji
スプリントで先頭に躍り出る別府史之(トレック・セガフレード) photo:Yuya.Yamamoto
後続の追撃を寄せ付けない別府史之(トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji
ライバルスプリンターとして別府が最も警戒していたというエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、クリテリウムスペシャルチーム)も動く。1週間前のロード世界選手権で6位に入り、別府と同じフライトで日本入りしたボアッソンハーゲン。しかしスプリントに集中せず自ら動いたことから「ボアッソンハーゲンはおそらく調子があまり良くないんだと思った」と別府。
逃げという逃げはカンチェラーラの集団牽引によって封じ込められ、いよいよ最終周回の鐘がなる。ロード世界選手権を先頭集団で展開したヤスパー・ストゥイフェン(ベルギー)が別府をリードアウトし、最終コーナーを曲がった。
「長めのスプリントになるのが分かっていたので、ヤスパーには『残り300mぐらいから仕掛けてほしい』と告げていた。他に前を引くチームがいなくてスローペースになりがちな展開だったものの、彼が素晴らしいリードアウトが後ろの選手のポジションアップを許さなかった。そして『ここだ!』という残り250mで、自分のリズムで加速した」という別府が先頭でスプリント。番手をとっていた大久保陣(宇都宮ブリッツェン)らはこの加速に対応できず、別府が一気に先行した。
クリテリウム連覇を達成した別府史之(トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji
「トップスピードに乗ったところから踏んで行った。後ろの選手のことは考えず、自分のラインで、自分のスプリントで、出し切ることだけを考えた」と、勝利へのスプリントを振り返る別府。国内レースのスプリント戦場を席巻するジョン・アベラストゥリ(スペイン、チームUKYO)やマヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・メリダ)、フィニーらの追撃を寄せ付けなかった。
「去年も勝っているのでチームの信頼も厚かった。逃げを行かせ、チームがトレインを引っ張ってスプリントに持ち込むというシチュエーションがばっちり決まりました。完璧なチームの勝利だった。現役ラストレースのファビアン・カンチェラーラや、ツールで活躍した前年の覇者のバウケ・モレマ、グレゴリー・ラストといった選手が集団を引いてくれて、最後はヤスパー・ストゥイフェンに引かれて自分が仕事をやり遂げた。普段は縁の下の力持ちとしてエースをアシストする立場の自分を、ホームレースで勝つために全力でサポートしてくれた。その働きに応えないわけにはいかなかった」と、史上初のクリテリウム連覇を果たした別府。ホッと安堵の表情を浮かべながら表彰式の出番を待った。
クリテリウム連覇を果たした別府史之(トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji
別府史之の勝利を喜び合うトレック・セガフレード photo:Makoto.AYANO
クリテリウム表彰式。優勝別府史之、2位ジョン・アベラストゥリ(チームUKYO)、3位マヌエーレ・モーリ(ランプレ・メリダ)花束はヒューマンアカデミー株式会社提供 photo:Makoto.AYANO
豪快にシャンパンを開ける別府史之(日本、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji
スプリント賞を獲得した井上和郎(ブリヂストンアンカー)とジョセフ・ロスコフ(アメリカ、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji
ジャパンカップ2016クリテリウム結果
1位 別府史之(日本、トレック・セガフレード) 43’04”(Ave 47.0km/h)
2位 ジョン・アベラストゥリ(スペイン、チームUKYO)
3位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・メリダ)
4位 テイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング)
5位 マッティ・ブレシェル(デンマーク、キャノンデール・ドラパック)
6位 小野寺玲(日本、宇都宮ブリッツェン)
7位 ファビアン・リーンハルト(スイス、BMCレーシング)
8位 ピエールパオロ・デネグリ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)
9位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、クリテリウムスペシャルチーム)
10位 岡本隼(日本、日本ナショナルチーム)
スプリント賞
4周目 井上和郎(日本、ブリヂストンアンカー)
8周目 ジョセフ・ロスコフ(アメリカ、BMCレーシング)
12周目 ジョセフ・ロスコフ(アメリカ、BMCレーシング)
text:Kei Tsuji
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25回大会を記念してコースが西側に延長されたジャパンカップクリテリウム。フィニッシュ地点はバンバひろばに変わりないが、西側のUターンが本町交差点から池上町交差点まで約350m延長。これにより全長2.25kmとなった周回コースを15周する合計38.25kmで行われることに。なお、スプリント賞は4周、8周、12周目のフィニッシュ地点に設定されている。
宇都宮市役所をパレードスタート後、宇都宮市の佐藤栄一市長や「弱虫ペダル」作者の渡辺航さんを先頭に大通りに登場した選手たち。2周のパレード走行後には、この土曜日のクリテリウムをもって現役を引退するファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)への花束贈呈が行われた。
宇都宮は気温18度の曇り空。スタート前には寒いそぶりを見せていた選手たちも、40分強のハイスピードレースが始まるとすぐに活気付く。序盤はアタックに次ぐアタックで、新城幸也(ランプレ・メリダ)が積極的に動くシーンも。
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その後もアタックと吸収が断続的に繰り広げられる。このジャパンカップにビッグスプリンターを連れてきていないトップチームもアタック合戦に加わったことで状況が安定せず、決定的な動きが生まれないまま周回板の数字が減っていった。
レース中盤に抜け出したのはジョセフ・ロスコフ(アメリカ、BMCレーシング)とベンジャミン・ヒル(オーストラリア、チームアタッキグスト)の2人。
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メイン集団を率いて逃げるロスコフとヒルを追ったのは、蛍光イエローのジャージに身を包んだトレック・セガフレードだった。ファビアン・カンチェラーラ(スイス)、グレゴリー・ラスト(スイス)、バウケ・モレマ(オランダ)の3名が先頭でローテーションを回し、逃げとのタイム差を射程圏内に抑え込む。
タイム差が数秒になった残り3周でメイン集団ではカウンターアタックが勃発し、すぐさまロスコフとヒルは吸収。クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、オリカ・バイクエクスチェンジ)やテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング)らが先行を試みるも決まらない。
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逃げという逃げはカンチェラーラの集団牽引によって封じ込められ、いよいよ最終周回の鐘がなる。ロード世界選手権を先頭集団で展開したヤスパー・ストゥイフェン(ベルギー)が別府をリードアウトし、最終コーナーを曲がった。
「長めのスプリントになるのが分かっていたので、ヤスパーには『残り300mぐらいから仕掛けてほしい』と告げていた。他に前を引くチームがいなくてスローペースになりがちな展開だったものの、彼が素晴らしいリードアウトが後ろの選手のポジションアップを許さなかった。そして『ここだ!』という残り250mで、自分のリズムで加速した」という別府が先頭でスプリント。番手をとっていた大久保陣(宇都宮ブリッツェン)らはこの加速に対応できず、別府が一気に先行した。
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「去年も勝っているのでチームの信頼も厚かった。逃げを行かせ、チームがトレインを引っ張ってスプリントに持ち込むというシチュエーションがばっちり決まりました。完璧なチームの勝利だった。現役ラストレースのファビアン・カンチェラーラや、ツールで活躍した前年の覇者のバウケ・モレマ、グレゴリー・ラストといった選手が集団を引いてくれて、最後はヤスパー・ストゥイフェンに引かれて自分が仕事をやり遂げた。普段は縁の下の力持ちとしてエースをアシストする立場の自分を、ホームレースで勝つために全力でサポートしてくれた。その働きに応えないわけにはいかなかった」と、史上初のクリテリウム連覇を果たした別府。ホッと安堵の表情を浮かべながら表彰式の出番を待った。
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1位 別府史之(日本、トレック・セガフレード) 43’04”(Ave 47.0km/h)
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3位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・メリダ)
4位 テイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング)
5位 マッティ・ブレシェル(デンマーク、キャノンデール・ドラパック)
6位 小野寺玲(日本、宇都宮ブリッツェン)
7位 ファビアン・リーンハルト(スイス、BMCレーシング)
8位 ピエールパオロ・デネグリ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ)
9位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、クリテリウムスペシャルチーム)
10位 岡本隼(日本、日本ナショナルチーム)
スプリント賞
4周目 井上和郎(日本、ブリヂストンアンカー)
8周目 ジョセフ・ロスコフ(アメリカ、BMCレーシング)
12周目 ジョセフ・ロスコフ(アメリカ、BMCレーシング)
text:Kei Tsuji