過去最高の43,000人が宇都宮市街に集まったジャパンカップクリテリウム。集団スプリントに持ち込まれたレースを制したのは別府史之(トレックファクトリーレーシング)でした。日本人初勝利となったレースをレポートします。
宇都宮市の目抜き通りである宇都宮市大通りを規制して作る1周1.55kmの直線的なコースを77名の選手たちが駆け抜けるジャパンカップクリテリウム。180度ターンが2つある周回コースを20周する。5周毎にスプリントポイントが設定されているのは例年通りだ。
前日から天気予報は降雨を告げていたが宇都宮には青空が広がった。路面はほぼドライ。来日した選手たちの心配そうな表情は晴れ渡った。
次世代の若手がしのぎを削ったホープフルクリテリウムとガールズケイリンスペシャルレースが終わると、宇都宮競輪場をスタートした一行が宇都宮市の佐藤栄一市長を先頭に大通りに登場。幾重にも連なった観客の声援に応えながら、クリテリウムスペシャルチームを含む16チームがゆっくりと3周パレード走行した。
レースは国内UCIコンチネンタルチームの積極的なアタックでスタート。しかしアタックが決まらないまま集団はハイスピードで進行した。バウク・モレマ(オランダ、トレックファクトリーレーシング)やミヒャエル・シェアー(スイス、BMCレーシング)が飛び出すシーンも見られたが吸収され、集団一つで5周目のスプリントポイントに差し掛かった。
集団からするすると抜け出したのは「チームメイトを引き上げようと先頭に出たら、一人で飛び出す形になった」と話す鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)。そのまま集団を引き離したままスプリントポイントに差し掛かり、チームのお膝元である宇都宮の観客を沸かす。
集団では再びアタック合戦が活発化し、ニコラ・ルフランソワ(フランス、ノボノルディスク)とエリック・シェパード(オーストラリア、アタックチームガスト)、オスカル・プジョル(スペイン、チームUKYO)、ホセビセンテ・トリビオ(スペイン、マトリックスパワータグ)、初山翔(ブリヂストンアンカー)、城田大和(宇都宮ブリッツェン)、入部正太朗(日本ナショナルチーム)の7名が先行開始。メイン集団がペースを弱めたためタイム差は20秒まで広がった。
10周目のスプリントポイントではプジョルが早めに仕掛けるもライバルを振り切れず、緩斜面のスプリントで城田が先着。「タイミングよく逃げに乗って、スプリントポイントを狙った」という城田が宇都宮ブリッツェンにスプリントポイント連取をもたらした。
レース後半に入るとキャノンデール・ガーミンやトレックファクトリーレーシングといったUCIワールドチームがメイン集団のペースアップを開始する。15周目のスプリントポイントに向けて逃げグループはばらけるシーンも見られたが、最終ストレートでグループは一つに。「明日(日曜日)に備えて抑えろ!抑えろ!と監督に言われていた」という初山が大声援に応えるように先頭通過した。これで3つのスプリント賞を獲得したのはすべて日本人となった。
続くプジョルのアタックによって形を崩した逃げグループは、フィニッシュまで3周半を残して吸収。最終スプリントに向けた位置取り合戦が始まる。主導権をとったのはトレックファクトリーレーシングだった。
ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)が献身的な走りで集団先頭に立ち、その後ろにモレマやローラン・ディディエ(ルクセンブルク)、ヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ)、そして別府が続く。チームスカイやランプレ・メリダも集団前方に上がる。
最終周回に入るとベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)がベン・スウィフト(イギリス)を連れて先頭へ。しかし完全に主導権を奪うチームが現れず、混戦状態のまま残り650mの最終コーナーに差し掛かった。
スプリントで真っ先に仕掛けたのは前年3位のスウィフト。「タオ(ゲオゲガンハート)が長時間メイン集団を牽引してくれて、一日中ずっとアイゼルが自分をアシストしてくれたので力を温存することが出来た。最終コーナーを3番手で抜けて良いポジションでスプリントに持ち込んだ」とスウィフトは振り返る。
スプリントで先行したスウィフトを追撃したのは、最終的にポポヴィッチのリードアウトを受けた別府だった。フィニッシュラインまで350mを残してスプリントを開始したスウィフトは徐々にスピードを失う。「結果的に仕掛けるのが早すぎた。つまりスプリントが長すぎたんだ」とスウィフト。
残り50mから始まる緩い登り勾配で失速したスウィフトを、コーナー外側から別府が追い抜いていく。「フィニッシュまで300m以上を残して仕掛けたスウィフトを落ち着いてマークした。自分は54T(のアウターチェーンリング)を使っていたので、最後にかわせると思っていた」という別府が最後の踏みで頭一つ抜け出す。クリテリウム表彰台の常連スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、クリテリウムスペシャルチーム)は届かず、別府が歓喜の表情で両手を挙げた。
初開催の2010年から、6年目のジャパンカップクリテリウムで初めて生まれた日本人の優勝者。「こんなに多くの観客に応援されて、頑張らないわけにはいかないじゃないですか」と、過去最高を記録した43000人という観客の声援に別府は最高の形で応えた。
「あまり日本のレースを走るチャンスがない中で、こうして日本で結果を残すことが出来て本当に嬉しい。普段はアシストとしてチームメイトを勝たせることに力を使っているけど、今回は『チーム一丸となってフミを勝たせたい』という戦略だった。そのことが追い風になりました」と別府。翌日のジャパンカップでもチームとして勝利を狙っていくと締めくくった。
ジャパンカップ2015クリテリウム結果
1位 別府史之(日本、トレックファクトリーレーシング) 42'29"
2位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)
3位 スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、クリテリウムスペシャルチーム)
4位 ベンジャミン・プラデス(スペイン、マトリックス・パワータグ)
5位 アルベルト・ベッティオール(イタリア、キャノンデール・ガーミン)
6位 フローリス・ゲルツ(オランダ、BMCレーシング)
7位 小野寺玲(日本、那須ブラーゼン)
8位 大久保陣(日本、宇都宮ブリッツェン)
9位 畑中勇介(日本、チームUKYO)
10位 アンドレア・ペロン(イタリア、ノボノルディスク)
11位 マテイ・モホリッチ(スロベニア、キャノンデール・ガーミン)
12位 フェン・チュンカイ(台湾、ランプレ・メリダ)
13位 鈴木龍(日本、那須ブラーゼン)
14位 中根英登(日本、愛三工業レーシング)
15位 マルティン・フェルスホール(オランダ、ノボノルディスク)
16位 アイラン・フェルナンデスカサソラ(スペイン、マトリックス・パワータグ)
17位 窪木一茂(日本、チームUKYO)
18位 小坂光(日本、クリテリウムスペシャルチーム)
19位 吉岡直哉(日本、那須ブラーゼン)
20位 シャルル・プラネ(フランス、ノボノルディスク)
ポイント賞
5周目 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)
10周目 城田大和(宇都宮ブリッツェン)
15周目 初山翔(ブリヂストンアンカー)
text&photo:Kei Tsuji
photo:Makoto.AYANO、Yuya.Yamamoto
宇都宮市の目抜き通りである宇都宮市大通りを規制して作る1周1.55kmの直線的なコースを77名の選手たちが駆け抜けるジャパンカップクリテリウム。180度ターンが2つある周回コースを20周する。5周毎にスプリントポイントが設定されているのは例年通りだ。
前日から天気予報は降雨を告げていたが宇都宮には青空が広がった。路面はほぼドライ。来日した選手たちの心配そうな表情は晴れ渡った。
次世代の若手がしのぎを削ったホープフルクリテリウムとガールズケイリンスペシャルレースが終わると、宇都宮競輪場をスタートした一行が宇都宮市の佐藤栄一市長を先頭に大通りに登場。幾重にも連なった観客の声援に応えながら、クリテリウムスペシャルチームを含む16チームがゆっくりと3周パレード走行した。
レースは国内UCIコンチネンタルチームの積極的なアタックでスタート。しかしアタックが決まらないまま集団はハイスピードで進行した。バウク・モレマ(オランダ、トレックファクトリーレーシング)やミヒャエル・シェアー(スイス、BMCレーシング)が飛び出すシーンも見られたが吸収され、集団一つで5周目のスプリントポイントに差し掛かった。
集団からするすると抜け出したのは「チームメイトを引き上げようと先頭に出たら、一人で飛び出す形になった」と話す鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)。そのまま集団を引き離したままスプリントポイントに差し掛かり、チームのお膝元である宇都宮の観客を沸かす。
集団では再びアタック合戦が活発化し、ニコラ・ルフランソワ(フランス、ノボノルディスク)とエリック・シェパード(オーストラリア、アタックチームガスト)、オスカル・プジョル(スペイン、チームUKYO)、ホセビセンテ・トリビオ(スペイン、マトリックスパワータグ)、初山翔(ブリヂストンアンカー)、城田大和(宇都宮ブリッツェン)、入部正太朗(日本ナショナルチーム)の7名が先行開始。メイン集団がペースを弱めたためタイム差は20秒まで広がった。
10周目のスプリントポイントではプジョルが早めに仕掛けるもライバルを振り切れず、緩斜面のスプリントで城田が先着。「タイミングよく逃げに乗って、スプリントポイントを狙った」という城田が宇都宮ブリッツェンにスプリントポイント連取をもたらした。
レース後半に入るとキャノンデール・ガーミンやトレックファクトリーレーシングといったUCIワールドチームがメイン集団のペースアップを開始する。15周目のスプリントポイントに向けて逃げグループはばらけるシーンも見られたが、最終ストレートでグループは一つに。「明日(日曜日)に備えて抑えろ!抑えろ!と監督に言われていた」という初山が大声援に応えるように先頭通過した。これで3つのスプリント賞を獲得したのはすべて日本人となった。
続くプジョルのアタックによって形を崩した逃げグループは、フィニッシュまで3周半を残して吸収。最終スプリントに向けた位置取り合戦が始まる。主導権をとったのはトレックファクトリーレーシングだった。
ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)が献身的な走りで集団先頭に立ち、その後ろにモレマやローラン・ディディエ(ルクセンブルク)、ヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ)、そして別府が続く。チームスカイやランプレ・メリダも集団前方に上がる。
最終周回に入るとベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)がベン・スウィフト(イギリス)を連れて先頭へ。しかし完全に主導権を奪うチームが現れず、混戦状態のまま残り650mの最終コーナーに差し掛かった。
スプリントで真っ先に仕掛けたのは前年3位のスウィフト。「タオ(ゲオゲガンハート)が長時間メイン集団を牽引してくれて、一日中ずっとアイゼルが自分をアシストしてくれたので力を温存することが出来た。最終コーナーを3番手で抜けて良いポジションでスプリントに持ち込んだ」とスウィフトは振り返る。
スプリントで先行したスウィフトを追撃したのは、最終的にポポヴィッチのリードアウトを受けた別府だった。フィニッシュラインまで350mを残してスプリントを開始したスウィフトは徐々にスピードを失う。「結果的に仕掛けるのが早すぎた。つまりスプリントが長すぎたんだ」とスウィフト。
残り50mから始まる緩い登り勾配で失速したスウィフトを、コーナー外側から別府が追い抜いていく。「フィニッシュまで300m以上を残して仕掛けたスウィフトを落ち着いてマークした。自分は54T(のアウターチェーンリング)を使っていたので、最後にかわせると思っていた」という別府が最後の踏みで頭一つ抜け出す。クリテリウム表彰台の常連スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、クリテリウムスペシャルチーム)は届かず、別府が歓喜の表情で両手を挙げた。
初開催の2010年から、6年目のジャパンカップクリテリウムで初めて生まれた日本人の優勝者。「こんなに多くの観客に応援されて、頑張らないわけにはいかないじゃないですか」と、過去最高を記録した43000人という観客の声援に別府は最高の形で応えた。
「あまり日本のレースを走るチャンスがない中で、こうして日本で結果を残すことが出来て本当に嬉しい。普段はアシストとしてチームメイトを勝たせることに力を使っているけど、今回は『チーム一丸となってフミを勝たせたい』という戦略だった。そのことが追い風になりました」と別府。翌日のジャパンカップでもチームとして勝利を狙っていくと締めくくった。
ジャパンカップ2015クリテリウム結果
1位 別府史之(日本、トレックファクトリーレーシング) 42'29"
2位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)
3位 スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、クリテリウムスペシャルチーム)
4位 ベンジャミン・プラデス(スペイン、マトリックス・パワータグ)
5位 アルベルト・ベッティオール(イタリア、キャノンデール・ガーミン)
6位 フローリス・ゲルツ(オランダ、BMCレーシング)
7位 小野寺玲(日本、那須ブラーゼン)
8位 大久保陣(日本、宇都宮ブリッツェン)
9位 畑中勇介(日本、チームUKYO)
10位 アンドレア・ペロン(イタリア、ノボノルディスク)
11位 マテイ・モホリッチ(スロベニア、キャノンデール・ガーミン)
12位 フェン・チュンカイ(台湾、ランプレ・メリダ)
13位 鈴木龍(日本、那須ブラーゼン)
14位 中根英登(日本、愛三工業レーシング)
15位 マルティン・フェルスホール(オランダ、ノボノルディスク)
16位 アイラン・フェルナンデスカサソラ(スペイン、マトリックス・パワータグ)
17位 窪木一茂(日本、チームUKYO)
18位 小坂光(日本、クリテリウムスペシャルチーム)
19位 吉岡直哉(日本、那須ブラーゼン)
20位 シャルル・プラネ(フランス、ノボノルディスク)
ポイント賞
5周目 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)
10周目 城田大和(宇都宮ブリッツェン)
15周目 初山翔(ブリヂストンアンカー)
text&photo:Kei Tsuji
photo:Makoto.AYANO、Yuya.Yamamoto