海外強豪チームが世界トップクラスのスピードを披露した宇都宮ジャパンカップクリテリウム。積極的なエスケープとロングスパートを成功させたトムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック)がチームのJCクリテ連勝記録を5に伸ばしました。レースの模様を詳しくお伝えします。
宇都宮市市政120周年とジャパンカップ25回大会を記念して2016年に初開催された宇都宮ジャパンカップクリテリウムも今年で13回目。市中心部を貫く宇都宮大通りを規制した往復コースを走る短距離高強度レースで、世界からやってきたトップ選手たちがスピードを披露した。
オリオン通りと交差するシンボルロードから大通りに入り、両側の歩道をびっちり埋めた観客の前をゆっくりとパレードラン。大歓声に包まれつつ、雨上がりの蒸し暑さが残る15時40分に20チーム118名の選手たちがスタートを切った。
1周2.25kmを15周回する合計33.75kmのショートレースは、最初からお見合い無しのハイスピード進行を見せる。チームプレゼンで現役引退を発表した元全日本王者、畑中勇介(キナンレーシングチーム)がファーストアタックを決め、スイス王者マウロ・シュミット(スイス、チーム・ジェイコ・アルウラー)たちが合流する。ワールドチームが積極的に動いたことで激しいアタック合戦が繰り返された。
スピードを持ち味にするイヴ・ランパールト(ベルギー、スーダル・クイックステップ)や「走ってみたら脚の調子は良かった」と言う留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)、孫崎大樹(キナンレーシングチーム)らが動く中、2周目の上河原交差点折り返しでニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)が加速する。シュミットやマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)が同調したこの動きが、結果的に勝ち逃げへと繋がった。
日曜日に向けてコンディションを上げるパウレスと、クラシックハンターであるモホリッチにシュミット、アントワン・ユビー(フランス、スーダル・クイックステップ)、さらにローガン・カリー(ニュージーランド、ロット・デスティニー)が先行グループを形成。
マッズ・ピーダスン(デンマーク)のスプリントを狙うリドル・トレックは序盤こそ集団コントロールを担っていたものの、当初から考えていたという逃げにメンバーを送り込む作戦に変更する。
4周目にアンドレア・バジオーリ(イタリア、リドル・トレック)が単独ジャンプに成功し、続いてカナダ王者マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)やアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)、トムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック)、ジャンマルコ・ガロフォリ(イタリア、アスタナ・カザクスタン・チーム)が合流。ありとあらゆる強豪海外勢がメンバーを乗せたことでレースの流れが大きく変わることとなった。
協調態勢が築かれたメンバーの中で、5周目と10周目の中間スプリントをモホリッチが先着。8周目にはブレイディ・ギルモア(オーストラリア、イスラエル・プレミアテック)が遅れかけたシュミットを引き連れて合流に成功。イスラエル(ウッズ、ギルモア)とリドル(バジオーリ、スクインシュ)が2名ずつ乗せた逃げグループが、追走のリズムを失ったメイン集団を引き離していく。
このタイミングで国内チームは一切動けなかった。散発的な加速こそあったものの、特別ジャージを準備したホームレースの宇都宮ブリッツェンも、岡本隼を擁する愛三工業レーシングチームも、欧州レースを戦ってきたJCL TEAM UKYOも、クリテリウム・スペシャル・ライダーズも組織的な動きを組むことをしない。快調にローテーションを回す逃げグループとの差は埋められないほどまで拡大した。
「アタックする気ではいたけれど、最後まで逃げ切れるとは思っていなかった」と、逃げグループを積極的に牽引したパウレスは振り返り、「調子が良いし、このクリテリウムの雰囲気が大好きなのでレースを楽しみたかった」とウッズは振り返る。若干の牽制と様子見のアタックを繰り返しながら、逃げ切りに青信号を灯した11名が最終盤へ。
最終周回突入の鐘と共にアタックしたのはスクインシュだった。宇都宮二荒山神社前の登り勾配を生かして飛び出し、積極的にウッズが追っていることを確認して旧パルコ前で踏みやめる。最後の上河原交差点をクリアしたのちに牽制が始まったものの、最後尾から絶好のタイミングで再びスクインシュがアタックした。
「彼が仕掛けることは分かっていたけど、タイミングを失って背中に付けなかった」と振り返るパウレスを突き放して、スクインシュがロングスプリント。背後を振り返る余裕のリードでフィニッシュラインを駆け抜けた。
ジャパンカップクリテリウム史上初の逃げ切りで、リドル・トレックにとっては2018年のジョン・デゲンコルプ(ドイツ)、2019年と中断を挟んでの2022年&2023年のエドワード・トゥーンス(ベルギー)に続く5連覇。これまでと全く違う展開ながら、またしてもリドルのチーム力が光った。2位は一時遅れるも復帰したシュミットで、3位は今年ワールドチーム昇格した23歳のユビー。積極的にレースを作ったパウレスは5位、ウッズは11位。共に明日に向けてコンディションの良さをアピールする形になった。
合計11名の逃げ切りにも関わらず、記録された平均スピード48.75km/h(レース時間41分32秒)は2023年の49.4km/h、2022年の49.0km/hに続く歴代3番目。まさに海外勢の脚を見せつけられる結果になった。
優勝 トムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック)
短いレースであっても、常にレースは速く厳しいもの。クリテリウムにおけるチームの(勝利という)伝統を守ることができて嬉しいよ。
ここでのレースは、大勢のファンから歓声を受ける素晴らしい雰囲気だ。だからまるで王様になった気分だよ。チームとして4連覇*できたことは素晴らしい。エディ(トゥーンス)は3連覇を達成したが、僕には絶対に無理なこと。だからこの1勝でも十分うれしい結果だよ。
作戦としては、昨年までと違い「レースのコントロールを担わない」と決めていた。とても厳しいレースだからね。だからこそ逃げに選手を送り、それでも厳しいレースとなった。そして幸運にも勝利することができたんだ。
*正しくは5連覇
2位 マウロ・シュミット(スイス、ジェイコ・アルウラー)
予想よりも遥かに厳しいレースとなった。明日に向けて調子を上げるレースになるはずが、とてもキツかったよ。
3位 アントワン・ユビー(フランス、スーダル・クイックステップ)
勝利を狙う勝負を楽しむことができた。これほど多くのファンのなか、このようなレースをすることができて嬉しいよ。
ジャパンカップクリテリウム2024結果
1位 | トムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック) |
2位 | マウロ・シュミット(スイス、チーム・ジェイコ・アルウラー) |
3位 | アントワン・ユビー(フランス、スーダル・クイックステップ) |
4位 | ブレイディ・ギルモア(オーストラリア、イスラエル・プレミアテック) |
5位 | ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) |
6位 | マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) |
7位 | アンドレア・バジオーリ(イタリア、リドル・トレック) |
8位 | アントニー・ペレス(フランス、コフィディス) |
9位 | ジャンマルコ・ガロフォリ(イタリア、アスタナ・カザクスタン・チーム) |
10位 | ローガン・カリー(ニュージーランド、ロット・デスティニー) |
text: So Isobe
photo: Makoto AYANO, Kei Tsuji, Yuichiro Hosoda