「タイム差が広がり続けたので、勝利を確信しながらラスト数キロを楽しみながら走ることが出来た」。水しぶきを上げながら、余裕たっぷりのウィニングポーズを決めて森林公園のフィニッシュラインを駆け抜けたマイケル・ロジャース(オーストラリア、サクソ・ティンコフ)はそう語った。
気温12度。選手たちが周回をこなす度に雨脚は強まり、気温は下がり、集団の人数が減り、古賀志林道に集まった観客の数も減って行った。
冷たい雨に包まれた栃木県宇都宮市の森林公園に、勢い良く飛び出して行った84名の選手たち。史上最多6つのUCIプロチームを含むプロトンから、マティアス・フリードマン(ドイツ、チャンピオンシステム)が開口一番アタックを仕掛けた。
UCIプロチームがメイン集団の先頭に陣取って静観する中、フリードマンや阿部嵩之(チームUKYO)が積極的にアタックを仕掛けた結果、2周目に11名の逃げグループが形成される。ここから再びフリードマンが抜け出し、10名が追う展開に。
追走グループを形成したのは5チーム・10名の選手たち。福島晋一と内間康平(チームNIPPO・デローザ)、吉田隼人と入部正太朗(シマノレーシング)、アントニオ・カベッロと阿部嵩之(チームUKYO)、普久原奨と堀孝明(宇都宮ブリッツェン)、平井栄一(ブリヂストンアンカー)、ルイスエンリケ・ダヴィラ(ジェリーベリー)。
現役引退を表明し、スタート前に新城幸也から花束を受け取ったベテラン福島を含む追走グループは、独走で3周目の山岳賞を獲得したフリードマンを1分30秒差で追いかける。さらにその1分30秒後方のメイン集団は、ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、スカイプロサイクリング)をはじめとするUCIプロチームライダーたちが徹底的にコントロール。タイム差は3分以内に抑え込まれた。
レース中盤に差し掛かると、小雨が本降りに変わり、強風が平地区間に吹き付け始める。この過酷なコンディションの中、ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)やリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング)、マット・ブラマイヤー(アイルランド、チャンピオンシステム)が早々にリタイアした。
好ペースを刻んで単独で逃げ続けたフリードマンには、6周目で追走グループが合流。ダヴィラが6周目の山岳賞を獲得してみせる。再び11名にまとまった逃げグループを、およそ1分差でメイン集団が追う状況が続いた。
レースが動きを見せたのは、フィニッシュまで3周回を残した9周目。福島晋一らのペースアップで逃げグループは崩壊し、吉田隼人が9周目の山岳賞を獲得する。福島と吉田の2人は10周目の古賀志林道で吸収。そこからサクソ・ティンコフのペースアップが始まった。
逃げ吸収と同時にロリー・サザーランド(オーストラリア、サクソ・ティンコフ)がアタックさながらの勢いでメイン集団のペースを上げ、人数を絞り込んだ古賀志林道をクリアする。この時の状況をロジャースは「残り2周の(古賀志林道の)登りでロリー(サザーランド)とエフゲニー(ペトロフ)の素晴らしいリードでメイン集団が7〜8人に絞られた。そこからエドモンソンと抜け出したんだ」と振り返る。
フィニッシュまで1.5周を残してロジャースとジョシュア・エドモンソン(イギリス、スカイプロサイクリング)の2人が先行。そのまま最終周回の鐘を聞くと、最後の古賀志林道でロジャースがエドモンソンを振り切った。
残りおよそ8kmから独走に持ち込んだロジャース。遅れたエドモンソンにはダビ・ロペスガルシア(スペイン、スカイプロサイクリング)とジュリアン・アレドンド(コロンビア、チームNIPPO・デローザ)が合流したが、先頭のロジャースを追いきれない。
じわりじわりとリードを広げながら、降りしきる雨の中をロジャースが独走。ロペスガルシアのグループにはダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・メリダ)やジャック・バウアー(ニュージーランド、ガーミン・シャープ)が合流したものの、先頭ロジャースは遥か彼方。黄色いマヴィックカーを引き連れて、ロジャースがフィニッシュラインを駆け抜けた。
「チームメイトによるパーフェクトなお膳立てのおかげで、最高の勝ち方でシーズンを終えることが出来た。後続とのタイム差が広がり続けたので、勝利を確信しながらラスト数キロを楽しみながら走ることが出来たよ」。シーズン最終戦で掴んだシーズン初勝利をロジャースはそう喜ぶ。
過去に3年連続でタイムトライアル世界チャンピオンに輝いた33歳のロジャース。初めてタイムトライアルの世界タイトルを手にした2003年にジャパンカップを走っており、22位という結果を残している。
「序盤からの逃げを含め、全てはコントロール下にあった。単独で飛び出したマイケルは、タイムトライアル状態で独走した。もはや追走グループに為す術はなかった」とサクソ・ティンコフの指揮を執ったフィリップ・モデュイ監督は語っている。
日本人最高位となる9位に入った西谷泰治(愛三工業レーシングチーム)がアジア最優秀選手賞を獲得。また、7位のジョゼフ・ドンブロウスキー(アメリカ、スカイプロサイクリング)がU23最優秀選手賞を獲得している。
優勝タイムは例年よりも30分近く遅い4時間25分で、平均スピードは34.3km/h。この日の完走者は39名。福島晋一は39番目にフィニッシュラインを切った。
ジャパンカップ2013結果
1位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、サクソ・ティンコフ) 4h25'00"
2位 ジャック・バウアー(ニュージーランド、ガーミン・シャープ) +44"
3位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・メリダ)
4位 ジュリアン・アレドンド(コロンビア、チームNIPPO・デローザ)
5位 ダビ・ロペスガルシア(スペイン、スカイプロサイクリング) +50"
6位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・メリダ) +58"
7位 ジョゼフ・ドンブロウスキー(アメリカ、スカイプロサイクリング)
8位 カルロス・ベローナ(スペイン、オメガファーマ・クイックステップ)
9位 西谷泰治(日本、愛三工業レーシングチーム) +1'05"
10位 ジョシュア・エドモンソン(イギリス、スカイプロサイクリング) +1'33"
山岳賞
3周目 マティアス・フリードマン(ドイツ、チャンピオンシステム)
6周目 ルイスエンリケ・ダヴィラ(メキシコ、ジェリーベリー)
9周目 吉田隼人(日本、シマノレーシング)
アジア最優秀選手賞
西谷泰治(日本、愛三工業レーシングチーム)
U23最優秀選手賞
ジョゼフ・ドンブロウスキー(アメリカ、スカイプロサイクリング)
text&photo:Kei Tsuji
気温12度。選手たちが周回をこなす度に雨脚は強まり、気温は下がり、集団の人数が減り、古賀志林道に集まった観客の数も減って行った。
冷たい雨に包まれた栃木県宇都宮市の森林公園に、勢い良く飛び出して行った84名の選手たち。史上最多6つのUCIプロチームを含むプロトンから、マティアス・フリードマン(ドイツ、チャンピオンシステム)が開口一番アタックを仕掛けた。
UCIプロチームがメイン集団の先頭に陣取って静観する中、フリードマンや阿部嵩之(チームUKYO)が積極的にアタックを仕掛けた結果、2周目に11名の逃げグループが形成される。ここから再びフリードマンが抜け出し、10名が追う展開に。
追走グループを形成したのは5チーム・10名の選手たち。福島晋一と内間康平(チームNIPPO・デローザ)、吉田隼人と入部正太朗(シマノレーシング)、アントニオ・カベッロと阿部嵩之(チームUKYO)、普久原奨と堀孝明(宇都宮ブリッツェン)、平井栄一(ブリヂストンアンカー)、ルイスエンリケ・ダヴィラ(ジェリーベリー)。
現役引退を表明し、スタート前に新城幸也から花束を受け取ったベテラン福島を含む追走グループは、独走で3周目の山岳賞を獲得したフリードマンを1分30秒差で追いかける。さらにその1分30秒後方のメイン集団は、ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、スカイプロサイクリング)をはじめとするUCIプロチームライダーたちが徹底的にコントロール。タイム差は3分以内に抑え込まれた。
レース中盤に差し掛かると、小雨が本降りに変わり、強風が平地区間に吹き付け始める。この過酷なコンディションの中、ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)やリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング)、マット・ブラマイヤー(アイルランド、チャンピオンシステム)が早々にリタイアした。
好ペースを刻んで単独で逃げ続けたフリードマンには、6周目で追走グループが合流。ダヴィラが6周目の山岳賞を獲得してみせる。再び11名にまとまった逃げグループを、およそ1分差でメイン集団が追う状況が続いた。
レースが動きを見せたのは、フィニッシュまで3周回を残した9周目。福島晋一らのペースアップで逃げグループは崩壊し、吉田隼人が9周目の山岳賞を獲得する。福島と吉田の2人は10周目の古賀志林道で吸収。そこからサクソ・ティンコフのペースアップが始まった。
逃げ吸収と同時にロリー・サザーランド(オーストラリア、サクソ・ティンコフ)がアタックさながらの勢いでメイン集団のペースを上げ、人数を絞り込んだ古賀志林道をクリアする。この時の状況をロジャースは「残り2周の(古賀志林道の)登りでロリー(サザーランド)とエフゲニー(ペトロフ)の素晴らしいリードでメイン集団が7〜8人に絞られた。そこからエドモンソンと抜け出したんだ」と振り返る。
フィニッシュまで1.5周を残してロジャースとジョシュア・エドモンソン(イギリス、スカイプロサイクリング)の2人が先行。そのまま最終周回の鐘を聞くと、最後の古賀志林道でロジャースがエドモンソンを振り切った。
残りおよそ8kmから独走に持ち込んだロジャース。遅れたエドモンソンにはダビ・ロペスガルシア(スペイン、スカイプロサイクリング)とジュリアン・アレドンド(コロンビア、チームNIPPO・デローザ)が合流したが、先頭のロジャースを追いきれない。
じわりじわりとリードを広げながら、降りしきる雨の中をロジャースが独走。ロペスガルシアのグループにはダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・メリダ)やジャック・バウアー(ニュージーランド、ガーミン・シャープ)が合流したものの、先頭ロジャースは遥か彼方。黄色いマヴィックカーを引き連れて、ロジャースがフィニッシュラインを駆け抜けた。
「チームメイトによるパーフェクトなお膳立てのおかげで、最高の勝ち方でシーズンを終えることが出来た。後続とのタイム差が広がり続けたので、勝利を確信しながらラスト数キロを楽しみながら走ることが出来たよ」。シーズン最終戦で掴んだシーズン初勝利をロジャースはそう喜ぶ。
過去に3年連続でタイムトライアル世界チャンピオンに輝いた33歳のロジャース。初めてタイムトライアルの世界タイトルを手にした2003年にジャパンカップを走っており、22位という結果を残している。
「序盤からの逃げを含め、全てはコントロール下にあった。単独で飛び出したマイケルは、タイムトライアル状態で独走した。もはや追走グループに為す術はなかった」とサクソ・ティンコフの指揮を執ったフィリップ・モデュイ監督は語っている。
日本人最高位となる9位に入った西谷泰治(愛三工業レーシングチーム)がアジア最優秀選手賞を獲得。また、7位のジョゼフ・ドンブロウスキー(アメリカ、スカイプロサイクリング)がU23最優秀選手賞を獲得している。
優勝タイムは例年よりも30分近く遅い4時間25分で、平均スピードは34.3km/h。この日の完走者は39名。福島晋一は39番目にフィニッシュラインを切った。
ジャパンカップ2013結果
1位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、サクソ・ティンコフ) 4h25'00"
2位 ジャック・バウアー(ニュージーランド、ガーミン・シャープ) +44"
3位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・メリダ)
4位 ジュリアン・アレドンド(コロンビア、チームNIPPO・デローザ)
5位 ダビ・ロペスガルシア(スペイン、スカイプロサイクリング) +50"
6位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・メリダ) +58"
7位 ジョゼフ・ドンブロウスキー(アメリカ、スカイプロサイクリング)
8位 カルロス・ベローナ(スペイン、オメガファーマ・クイックステップ)
9位 西谷泰治(日本、愛三工業レーシングチーム) +1'05"
10位 ジョシュア・エドモンソン(イギリス、スカイプロサイクリング) +1'33"
山岳賞
3周目 マティアス・フリードマン(ドイツ、チャンピオンシステム)
6周目 ルイスエンリケ・ダヴィラ(メキシコ、ジェリーベリー)
9周目 吉田隼人(日本、シマノレーシング)
アジア最優秀選手賞
西谷泰治(日本、愛三工業レーシングチーム)
U23最優秀選手賞
ジョゼフ・ドンブロウスキー(アメリカ、スカイプロサイクリング)
text&photo:Kei Tsuji
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