オンラインで闘うヴァーチャルレース「デジタルジャパンカップ」が10月17日(土)に開催された。国内外トッププロ、ワールドツアー選手やアルベルト・コンタドールも参加したレースは宇都宮オリオンスクウェアのステージとJ SPORTSのスタジオをつなぎライブ配信され、大いに盛り上がった。
新型コロナウィルスの感染拡大によりジャパンカップサイクルロードレースは開催を断念。しかしその代わりに企画されたのがオンラインレース「デジタルジャパンカップ」だ。デジタル・スイス5でも採用されたアプリ「ROUVY(ルービー)」を利用し、インドアトレーナーに乗ってのヴァーチャルレースに国内外14チーム、EFプロサイクリングやミッチェルトン・スコット、NTTプロサイクリングといった3つのUCIワールドチームに、NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンスとノボ ノルディスク、そして9の国内コンチネンタルチームが顔を揃え、37選手が参加した。
例年ジャパンカップ前夜のチームプレゼンテーションの会場となる宇都宮オリオンスクウェアにステージが設けられ、県民限定で観戦にやってきた方々が三密を避けて着席。会場の上部には鉄骨造りの大屋根が新たに設置され、この日降り続く雨をしのいだ。会場前には海外チームのジャージとバイクが展示され、壁面のフォトギャラリーが気分を盛り上げる。
オープンレース
レースはまず一般参加可能なオープンレースから開幕。だれもがオンラインエントリーできることから世界中から250人以上がレースに出場。ステージにはブラウ・ブリッツェンの秋元碧&手塚正義選手、那須ハイランドパークの永井光さん、那須ブラーゼンの岩井航太監督が登壇し、1時間のレースを繰り広げた。
スクリーンに映し出されるROUVY(ルービー)の画面はジャパンカップのコースを実際に撮影したもので、選手たちはチームジャージのデザインが再現された「アバター」となってそのコース上を走って競い合う。画面には出力データやタイムなどが数字で掲示され、どれだけのパワーを使って走っているかが分かる仕組みだ。
ステージ上の選手はワフーKICKRスマートトレーナーと、勾配を再現するKICKR climbにバイクをセット。古賀志林道の激坂では前輪側が高くなり、バイクごと上下に傾くほか、坂に応じてペダルに掛かる負荷も増すというハイテクぶり。そして何より選手たちの息遣いは激しく、ヴァーチャルとはいえ実際のレースに近い迫力に会場の観客たちも圧倒される。
最終周回を単独先頭で駆け抜けたOHTOMO MAMORU(おおとも・まもる)が48分31秒で優勝。2位は+49秒のMORITA Kousei(もりた・こうせい)、3位は+1分29秒のIgor Kospe(イゴール・コスペ)。全体では13位だったステージ上の秋元碧の激走ぶりと4人それぞれの健闘ぶりに会場からは大きな拍手が湧いた。オープンレースを観れば、次に控えるプロレースの観戦のコツも分かるというもの。
プロレース
1時間おいてプロレースは18時スタート。ステージには地元栃木の宇都宮ブリッツェンと那須ブラーゼンの選手が登場。ブリッツェンは普久原奨と小坂光がスマートローラーにまたがり、股関節を痛めてレース離脱中の中村魁斗は実況ゲストとして参加。ブラーゼンは西尾勇人、谷順成、渡邊翔太郎の3選手が登壇。
岡篤志が欠場し、中根英登、石上優大、サイモン・カーの3人となったNIPPOデルコ・ワンプロヴァンス。EFプロサイクリングに移籍することがその日の朝に発表されたばかりの中根がZOOMでスクリーンに登場し、会場から拍手喝采を受ける。
話題のEF移籍発表について中根は「夕方発表のはずが、朝起きたらチーム側が先にリリースしていて、えらいことになっていました(笑)。デジタルジャパンカップに合わせてくれたのかもしてませんね。今日は石上とサイモンがやってくれると思います。サイモンは若手の中でも特に結果を出していて強いので今日も魅せてくれると思います」とコメント。
NTTプロサイクリングは入部正太朗が体調不良で欠場。マーク・プリッツェン(南アフリカ)に代わり、22歳のコナー・ブラウン(ニュージーランド)のみが出場。
スペシャルライダーはアルベルト・コンタドールのみ出場。イヴァン・バッソは新型コロナによるロックダウン等の影響を受け欠場。しかしレース途中で現在帯同するジロ・デ・イタリアの現場からリモートインタビューで登場した。
スペインの自宅からZOOMで会場スクリーンに登場したコンタドールは「ジャパンカップにこうして関われることが嬉しい。日本も和歌山とかいいところがたくさんある。ジャパンカップは自身の現役最後のレースで、だからこそ最高の思い出があるんだ。今日のレースは強力なメンバーばかりだから、どうなるかはわからないね」とコメント。
ステージ上の選手たちも一言づつコメント。
小坂(ブリッツェン)「こういう形で海外の選手たちと走れるのはすごく嬉しい」
普久原(元ブリッツェン)「2013年以来でここに立たせていただき、緊張していてどうなるかわからないけど、全力で行きたい」
渡辺(ブラーゼン)「アップした感じだと調子がいい。これだけ大勢の人の前でローラーをするのは初めてで、緊張している」
西尾(ブラーゼン)「コンデイションはわからないけど、これまでもヴァーチャルレースを走っていたので、今日も頑張りたい」
谷(ブラーゼン)「初めてのジャパンカップがまさかデジタルになるとは想像してなかった。デジタルと言えどやはりジャパンカップ、勝利を目指して頑張っていきたい」
そして宇都宮市長が登壇。「本来ですとUCIプロシリーズとして華々しく大会を実施するはずでした。しかし新型コロナの影響を受けて苦渋の決断をさせていただきました。しかし選手やファンの皆様の熱量を受け、何かできないものかということで、このデジタルジャパンカップを開催することとなりました。今年はオリオンスクエアに全面に屋根がつき、全天候型となりました。このデジタルジャパンカップが実現したのもこの会場のおかげでもあります。台風被害を受けた2019年大会は経済部が『絶対やる!』と言って進めてくれました。建設会社などに直談判するなど奔走して、大会が実現しました。
最近SNSを始めました。私、炎上が怖くてスポーツの事ばかりツイートしていまして、周りの方々に政治的な発言はしないのか?と言われるのですが、ブリッツェンそしてブラーゼン、この地元チームを応援するのが一番と思っております」と語った。
そして優勝者に贈られるジャージと地元産の大谷石を使った新たなトロフィーを紹介。このトロフィーは宇都宮市在住の陶芸家・谷口勇三さんによる、森林公園の緑と自転車の車輪をイメージした作品だ。
レースはジャパンカップのコースを3周・約1時間の闘いだ。スターターの市長の合図によりレース開始。各選手たちのアバターが一斉にROUVY上のコースに走り出す。スタート直後にディレーブ藤田がアタック。ブラーゼン谷が合流。そのまま単独先頭へ。NIPPO中根、ディレーブ高木、藤田、NTTブラウン、愛三大前らが前方に位置し、谷の後を追う。
KOMを通過し、谷をかわした大前が先頭に。100mほど後ろにブラウン。130m後方にブラーゼン渡辺、ディレーブ高木、マトリックス安原らが続く。
下り終わったところでブラウンが谷と大前を交わし、大前とブラウンが2人で先頭グループを形成。2人1組がROUVYでは有利と言われる。ステージ上の小坂が手を挙げ、隣に居る普久原のトラブルを告げる。どうやら接続が切れたようだ。「デジタル落車」と名付けられたこの現象により普久原は遅れた。
スクリーン脇の画面で華麗なペダリングを披露するコンタドールは24番手あたりを走行。豪華な自宅室内の様子に、観客からため息が漏れる。
レース中のJ SPORTSの画面にはバッソが登場し、インタビューに答える。バッソは現在ジロに帯同中だが、スケジュール変更により移動中の時間にあたってしまったため、ローラーに乗ることができなかったのだ。「デジタルレースの魅力とは?」と訊かれて次のように答えた。
バッソ「習慣というのが変わってきている。新しいフェーズに移っていく。みんなで一緒に並んで闘うバーチャルレースで笑ったり幸せを感じたりできるのではないかと考えている」「ジャパンカップのコースは難しい。最後まで足を残せるかというのはバーチャルでも同じ。レースは1時間ほどなので、かなり足に負担をかけて攻めることになる。TTが得意な選手が有利だろう。できる限り早く、現実の世界で日本に戻り、皆さんと一緒にライドしたいです」。
レースは2周目に入り、ブラウンと大前が依然として先頭。後続と差をつけて古賀志の上りに入っていく。
上り途中でブラウンから大前が遅れ、200mほどの差でKOMを通過した。
ブラウンは下りでも差を開き、大前との差は300mを超える。画面に映ったブラウンの隣にはサポートスタッフが隣に。そして後方の壁面には入部の日本チャンピオンジャージが飾られていた。
コンタドールはダンシングしつつ、愛三工業・西谷監督と抜きつ抜かれつで25番手を行く。コース終盤に入り、大前にマトリックス安原が合流し、2番手グループを形成。先頭ブラウンは700m以上先だ。4番手にホフラント、5番手にディレーブ高木。
最終周回の3周目はブラウンが単独トップで通過。ホフラントも大前、安原と同グループに。
古賀志の上り途中、ブラウンの350m後方には安原と大前、少し離れてホフラント、45m後ろに高木。6番手以降はマトリックスの44歳マンセボら4人がひと固まりになって前を追う。
単独で最後のKOMを通過したブラウンが後続に700m以上の差をつけるが、下りはじめるとさらに差を広げ、1.7km以上もの差に。平地の県道に入って2・3番手はホフラントと大前。安原が40mほど後方。伊藤と高木が4-5番手で300mほど後方を走る。
画面上ではマトリックスの3選手がチーム事務所で並んでローラーを踏むシーンが映し出される。そこに安原監督が登場、息子である安原⼤貴の前で、顔で画面を遮るといういたずらを披露した。例年チームプレゼンで繰り広げる爆笑劇場には及ばないものの、観客たちは笑いを堪えなければならなかった。
460W以上の出力で独走を続けたブラウンは残り3kmを切って後続との差を1.3kmほどに広げ、揺るぎない独走体勢に。そしてブラウンはガッツポーズしながらフィニッシュ。
2位を争う大前とホフラントが終盤へ。ホフラントの後方から、大前が絶妙なタイミングでアタックに成功。画面に映ったホフラントも身体をフルに使って必死に前を追う。大前も必死の形相でもがき続け、手に汗握る展開に。そのまま数m差で大前がホフラントを振り切って2位でフィニッシュ。ホフラントが3位。少し遅れて安原が4位。高木が5位に。
デジタルジャパンカップ覇者は22歳、身長187cmのニュージーランド人選手コナー・ブラウン(NTTプロサイクリング)に。レース当日の朝に急遽出場が発表された
ブラウンは言う。「ロックダウンが2ヶ月あり、その間ずっとインドアでトレーニングしていた経験が活かせた。初めてのコースだった(JCは未経験)ので走り方がよく分からなかったけど、他の選手たちがハイスピードで行くのを追いかけていたらうまくいった。後ろに飾ったショータロー(入部)のジャージが幸運を与えてくれたね」。
小坂(ブリッツェン)「予想通りきつかったけど、この場で走って皆さんに応援してもらえたのが良かった。結果は残念だったけど、今度はリアルなレースで成績を残せればと思います」。
谷(ブラーゼン)「最初の古賀志林道で前に出れば先頭集団に残れるだろうと思って攻撃に出た。でもやはり甘くはなくて先頭二人に置いていかれてしまった。でもいいパックに残れたので最後まで力を出せました」
ひとしきりインタビューを終えてみると、コンタドールはまだコース上に居た。カメラが切り替わり、ひとり走るコンタドールの姿が映し出されると、観客たちは拍手をしながら見守った。コンタドールは走り終えてすぐ、JSPORTSスタジオからの栗村修さんのインタビューに答える。
「予想していたよりずっと長い距離に感じた。今も400kmを走ったり、エベレスティング(自転車で標高8,848mを登るチャレンジ)をしたりしています。今も自転車が大好きで、バッソとコラボした自転車をプロデュースしたりしています」(コンタドール)。
そしてコンタドールはジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの優勝トロフィーをカメラの前に持ってきて、こう話した。「デジタルジャパンカップはとてもいいコース、いいレースだったと思うけれど、2021年は私が実際に日本に行きたいと思っています」。
コンタドールの締めの言葉に含まれた嬉しいオファーに会場が沸く。3つのグランツールに優勝したスペインの英雄が、来年のジャパンカップで来日することを約束してくれたのだ。
こうしてヴァーチャルなイベントでありながらリアルなサプライズと興奮を届けてくれたデジタルジャパンカップは幕を下ろした。来年のジャパンカップサイクルロードレースが元のリアルな姿でレースが開催できるかはまだわからないが、ヴァーチャルレースにおいてもジャパンカップならではの興奮が味わえたことに手応えがあったデジタルジャパンカップだった。
デジタルジャパンカップサイクルロードレースうつのみや 結果
1位 コナー・ブラウン(ニュージーランド、NTTプロサイクリング) 46分39秒
2位 大前翔(愛三工業レーシングチーム) +02分02秒
3位 モレノ・ホフラント(オランダ、EFプロサイクリング) +02分04秒
4位 安原大貴(マトリックスパワータグ) +02分22秒
5位 高木三千成(さいたまディレーブ) +02分34秒
text: Makoto AYANO, Yuichiro HOSODA
photo:Makoto AYANO
新型コロナウィルスの感染拡大によりジャパンカップサイクルロードレースは開催を断念。しかしその代わりに企画されたのがオンラインレース「デジタルジャパンカップ」だ。デジタル・スイス5でも採用されたアプリ「ROUVY(ルービー)」を利用し、インドアトレーナーに乗ってのヴァーチャルレースに国内外14チーム、EFプロサイクリングやミッチェルトン・スコット、NTTプロサイクリングといった3つのUCIワールドチームに、NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンスとノボ ノルディスク、そして9の国内コンチネンタルチームが顔を揃え、37選手が参加した。
例年ジャパンカップ前夜のチームプレゼンテーションの会場となる宇都宮オリオンスクウェアにステージが設けられ、県民限定で観戦にやってきた方々が三密を避けて着席。会場の上部には鉄骨造りの大屋根が新たに設置され、この日降り続く雨をしのいだ。会場前には海外チームのジャージとバイクが展示され、壁面のフォトギャラリーが気分を盛り上げる。
オープンレース
レースはまず一般参加可能なオープンレースから開幕。だれもがオンラインエントリーできることから世界中から250人以上がレースに出場。ステージにはブラウ・ブリッツェンの秋元碧&手塚正義選手、那須ハイランドパークの永井光さん、那須ブラーゼンの岩井航太監督が登壇し、1時間のレースを繰り広げた。
スクリーンに映し出されるROUVY(ルービー)の画面はジャパンカップのコースを実際に撮影したもので、選手たちはチームジャージのデザインが再現された「アバター」となってそのコース上を走って競い合う。画面には出力データやタイムなどが数字で掲示され、どれだけのパワーを使って走っているかが分かる仕組みだ。
ステージ上の選手はワフーKICKRスマートトレーナーと、勾配を再現するKICKR climbにバイクをセット。古賀志林道の激坂では前輪側が高くなり、バイクごと上下に傾くほか、坂に応じてペダルに掛かる負荷も増すというハイテクぶり。そして何より選手たちの息遣いは激しく、ヴァーチャルとはいえ実際のレースに近い迫力に会場の観客たちも圧倒される。
最終周回を単独先頭で駆け抜けたOHTOMO MAMORU(おおとも・まもる)が48分31秒で優勝。2位は+49秒のMORITA Kousei(もりた・こうせい)、3位は+1分29秒のIgor Kospe(イゴール・コスペ)。全体では13位だったステージ上の秋元碧の激走ぶりと4人それぞれの健闘ぶりに会場からは大きな拍手が湧いた。オープンレースを観れば、次に控えるプロレースの観戦のコツも分かるというもの。
プロレース
1時間おいてプロレースは18時スタート。ステージには地元栃木の宇都宮ブリッツェンと那須ブラーゼンの選手が登場。ブリッツェンは普久原奨と小坂光がスマートローラーにまたがり、股関節を痛めてレース離脱中の中村魁斗は実況ゲストとして参加。ブラーゼンは西尾勇人、谷順成、渡邊翔太郎の3選手が登壇。
岡篤志が欠場し、中根英登、石上優大、サイモン・カーの3人となったNIPPOデルコ・ワンプロヴァンス。EFプロサイクリングに移籍することがその日の朝に発表されたばかりの中根がZOOMでスクリーンに登場し、会場から拍手喝采を受ける。
話題のEF移籍発表について中根は「夕方発表のはずが、朝起きたらチーム側が先にリリースしていて、えらいことになっていました(笑)。デジタルジャパンカップに合わせてくれたのかもしてませんね。今日は石上とサイモンがやってくれると思います。サイモンは若手の中でも特に結果を出していて強いので今日も魅せてくれると思います」とコメント。
NTTプロサイクリングは入部正太朗が体調不良で欠場。マーク・プリッツェン(南アフリカ)に代わり、22歳のコナー・ブラウン(ニュージーランド)のみが出場。
スペシャルライダーはアルベルト・コンタドールのみ出場。イヴァン・バッソは新型コロナによるロックダウン等の影響を受け欠場。しかしレース途中で現在帯同するジロ・デ・イタリアの現場からリモートインタビューで登場した。
スペインの自宅からZOOMで会場スクリーンに登場したコンタドールは「ジャパンカップにこうして関われることが嬉しい。日本も和歌山とかいいところがたくさんある。ジャパンカップは自身の現役最後のレースで、だからこそ最高の思い出があるんだ。今日のレースは強力なメンバーばかりだから、どうなるかはわからないね」とコメント。
ステージ上の選手たちも一言づつコメント。
小坂(ブリッツェン)「こういう形で海外の選手たちと走れるのはすごく嬉しい」
普久原(元ブリッツェン)「2013年以来でここに立たせていただき、緊張していてどうなるかわからないけど、全力で行きたい」
渡辺(ブラーゼン)「アップした感じだと調子がいい。これだけ大勢の人の前でローラーをするのは初めてで、緊張している」
西尾(ブラーゼン)「コンデイションはわからないけど、これまでもヴァーチャルレースを走っていたので、今日も頑張りたい」
谷(ブラーゼン)「初めてのジャパンカップがまさかデジタルになるとは想像してなかった。デジタルと言えどやはりジャパンカップ、勝利を目指して頑張っていきたい」
そして宇都宮市長が登壇。「本来ですとUCIプロシリーズとして華々しく大会を実施するはずでした。しかし新型コロナの影響を受けて苦渋の決断をさせていただきました。しかし選手やファンの皆様の熱量を受け、何かできないものかということで、このデジタルジャパンカップを開催することとなりました。今年はオリオンスクエアに全面に屋根がつき、全天候型となりました。このデジタルジャパンカップが実現したのもこの会場のおかげでもあります。台風被害を受けた2019年大会は経済部が『絶対やる!』と言って進めてくれました。建設会社などに直談判するなど奔走して、大会が実現しました。
最近SNSを始めました。私、炎上が怖くてスポーツの事ばかりツイートしていまして、周りの方々に政治的な発言はしないのか?と言われるのですが、ブリッツェンそしてブラーゼン、この地元チームを応援するのが一番と思っております」と語った。
そして優勝者に贈られるジャージと地元産の大谷石を使った新たなトロフィーを紹介。このトロフィーは宇都宮市在住の陶芸家・谷口勇三さんによる、森林公園の緑と自転車の車輪をイメージした作品だ。
レースはジャパンカップのコースを3周・約1時間の闘いだ。スターターの市長の合図によりレース開始。各選手たちのアバターが一斉にROUVY上のコースに走り出す。スタート直後にディレーブ藤田がアタック。ブラーゼン谷が合流。そのまま単独先頭へ。NIPPO中根、ディレーブ高木、藤田、NTTブラウン、愛三大前らが前方に位置し、谷の後を追う。
KOMを通過し、谷をかわした大前が先頭に。100mほど後ろにブラウン。130m後方にブラーゼン渡辺、ディレーブ高木、マトリックス安原らが続く。
下り終わったところでブラウンが谷と大前を交わし、大前とブラウンが2人で先頭グループを形成。2人1組がROUVYでは有利と言われる。ステージ上の小坂が手を挙げ、隣に居る普久原のトラブルを告げる。どうやら接続が切れたようだ。「デジタル落車」と名付けられたこの現象により普久原は遅れた。
スクリーン脇の画面で華麗なペダリングを披露するコンタドールは24番手あたりを走行。豪華な自宅室内の様子に、観客からため息が漏れる。
レース中のJ SPORTSの画面にはバッソが登場し、インタビューに答える。バッソは現在ジロに帯同中だが、スケジュール変更により移動中の時間にあたってしまったため、ローラーに乗ることができなかったのだ。「デジタルレースの魅力とは?」と訊かれて次のように答えた。
バッソ「習慣というのが変わってきている。新しいフェーズに移っていく。みんなで一緒に並んで闘うバーチャルレースで笑ったり幸せを感じたりできるのではないかと考えている」「ジャパンカップのコースは難しい。最後まで足を残せるかというのはバーチャルでも同じ。レースは1時間ほどなので、かなり足に負担をかけて攻めることになる。TTが得意な選手が有利だろう。できる限り早く、現実の世界で日本に戻り、皆さんと一緒にライドしたいです」。
レースは2周目に入り、ブラウンと大前が依然として先頭。後続と差をつけて古賀志の上りに入っていく。
上り途中でブラウンから大前が遅れ、200mほどの差でKOMを通過した。
ブラウンは下りでも差を開き、大前との差は300mを超える。画面に映ったブラウンの隣にはサポートスタッフが隣に。そして後方の壁面には入部の日本チャンピオンジャージが飾られていた。
コンタドールはダンシングしつつ、愛三工業・西谷監督と抜きつ抜かれつで25番手を行く。コース終盤に入り、大前にマトリックス安原が合流し、2番手グループを形成。先頭ブラウンは700m以上先だ。4番手にホフラント、5番手にディレーブ高木。
最終周回の3周目はブラウンが単独トップで通過。ホフラントも大前、安原と同グループに。
古賀志の上り途中、ブラウンの350m後方には安原と大前、少し離れてホフラント、45m後ろに高木。6番手以降はマトリックスの44歳マンセボら4人がひと固まりになって前を追う。
単独で最後のKOMを通過したブラウンが後続に700m以上の差をつけるが、下りはじめるとさらに差を広げ、1.7km以上もの差に。平地の県道に入って2・3番手はホフラントと大前。安原が40mほど後方。伊藤と高木が4-5番手で300mほど後方を走る。
画面上ではマトリックスの3選手がチーム事務所で並んでローラーを踏むシーンが映し出される。そこに安原監督が登場、息子である安原⼤貴の前で、顔で画面を遮るといういたずらを披露した。例年チームプレゼンで繰り広げる爆笑劇場には及ばないものの、観客たちは笑いを堪えなければならなかった。
460W以上の出力で独走を続けたブラウンは残り3kmを切って後続との差を1.3kmほどに広げ、揺るぎない独走体勢に。そしてブラウンはガッツポーズしながらフィニッシュ。
2位を争う大前とホフラントが終盤へ。ホフラントの後方から、大前が絶妙なタイミングでアタックに成功。画面に映ったホフラントも身体をフルに使って必死に前を追う。大前も必死の形相でもがき続け、手に汗握る展開に。そのまま数m差で大前がホフラントを振り切って2位でフィニッシュ。ホフラントが3位。少し遅れて安原が4位。高木が5位に。
デジタルジャパンカップ覇者は22歳、身長187cmのニュージーランド人選手コナー・ブラウン(NTTプロサイクリング)に。レース当日の朝に急遽出場が発表された
ブラウンは言う。「ロックダウンが2ヶ月あり、その間ずっとインドアでトレーニングしていた経験が活かせた。初めてのコースだった(JCは未経験)ので走り方がよく分からなかったけど、他の選手たちがハイスピードで行くのを追いかけていたらうまくいった。後ろに飾ったショータロー(入部)のジャージが幸運を与えてくれたね」。
小坂(ブリッツェン)「予想通りきつかったけど、この場で走って皆さんに応援してもらえたのが良かった。結果は残念だったけど、今度はリアルなレースで成績を残せればと思います」。
谷(ブラーゼン)「最初の古賀志林道で前に出れば先頭集団に残れるだろうと思って攻撃に出た。でもやはり甘くはなくて先頭二人に置いていかれてしまった。でもいいパックに残れたので最後まで力を出せました」
ひとしきりインタビューを終えてみると、コンタドールはまだコース上に居た。カメラが切り替わり、ひとり走るコンタドールの姿が映し出されると、観客たちは拍手をしながら見守った。コンタドールは走り終えてすぐ、JSPORTSスタジオからの栗村修さんのインタビューに答える。
「予想していたよりずっと長い距離に感じた。今も400kmを走ったり、エベレスティング(自転車で標高8,848mを登るチャレンジ)をしたりしています。今も自転車が大好きで、バッソとコラボした自転車をプロデュースしたりしています」(コンタドール)。
そしてコンタドールはジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの優勝トロフィーをカメラの前に持ってきて、こう話した。「デジタルジャパンカップはとてもいいコース、いいレースだったと思うけれど、2021年は私が実際に日本に行きたいと思っています」。
コンタドールの締めの言葉に含まれた嬉しいオファーに会場が沸く。3つのグランツールに優勝したスペインの英雄が、来年のジャパンカップで来日することを約束してくれたのだ。
こうしてヴァーチャルなイベントでありながらリアルなサプライズと興奮を届けてくれたデジタルジャパンカップは幕を下ろした。来年のジャパンカップサイクルロードレースが元のリアルな姿でレースが開催できるかはまだわからないが、ヴァーチャルレースにおいてもジャパンカップならではの興奮が味わえたことに手応えがあったデジタルジャパンカップだった。
デジタルジャパンカップサイクルロードレースうつのみや 結果
1位 コナー・ブラウン(ニュージーランド、NTTプロサイクリング) 46分39秒
2位 大前翔(愛三工業レーシングチーム) +02分02秒
3位 モレノ・ホフラント(オランダ、EFプロサイクリング) +02分04秒
4位 安原大貴(マトリックスパワータグ) +02分22秒
5位 高木三千成(さいたまディレーブ) +02分34秒
text: Makoto AYANO, Yuichiro HOSODA
photo:Makoto AYANO