序盤からトップチームが攻撃を仕掛ける激しい戦いの末、チームワークを炸裂させたEFエデュケーション・イージーポストがワンツーフィニッシュ。独走に持ち込んだニールソン・パウレス(アメリカ)が表彰台の頂に立った。
昨日に続き、気温20℃に迫ろうかという絶好のコンディションに恵まれた第29回目のジャパンカップ。3年ぶりに帰ってきた国内最高峰のワンデーレースを目に焼き付けるべく、7万6000人のファンがホームストレートから古賀志林道山頂まで続く登坂区間を埋め尽くした。
標高差185mを一気に駆け上がる古賀志林道を含むジャパンカップ特設コースは1周10.3km。14周回の合計距離は144.2kmで、獲得標高差は2,590m。過去逃げ切りや小集団スプリントなど、さまざまな名勝負が繰り広げられてきた山岳コースに向け、世界中から選りすぐられた国内外16チーム/93人の選手が号砲と共にスタートを切った。
国内チームや海外コンチネンタルチームの逃げが決まり、ワールドチーム勢がコントロールするメイン集団が追いかけて後半勝負へ。それが2019年までの定石だったものの、この日は1周目から海外勢がペースアップを試みた。トレック・セガフレードの攻撃によって古賀志林道の下りを終える頃、トレック4名(チッコーネ、ベルナール、モスカ、トールク)やヨハン・プリース・パイタースン(デンマーク、バーレーン・ヴィクトリアス)らを含む超強力な10名グループが先行した。
この先行グループには「クリテリウムで刺激が入って調子が上がっていたので、最初からガンガン行こうと思っていた」と振り返る武山晃輔(チーム右京)もジョイン。トレックのアシスト勢は、1周のラップタイム14分台という終盤と同じハイペースで先頭グループを引っ張り続けた。
3周目に入ると追走していたコフィディスが状況を打開する。一列棒状で古賀志林道に突っ込み、先頭グループとの差を詰めた状態でギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)が先頭目掛けてジャンプ。
下りを終えて平坦路に出る頃には24名の先頭グループが形成されたものの、続く4周目の登りでアントワン・トールク(オランダ、トレック・セガフレード)が抜け出し、さらに新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が追走するなどレース状況は全く落ち着かない。アタックと分裂、追走を経てトールクが捕まると、次第に先頭グループのペースに陰りが見え始めた。
宇都宮ブリッツェンの阿部嵩之と小野寺玲が長時間追走を担ったメイン集団(33名)は、6周目に先頭グループ(23名)を捉えてレースを仕切り直す。堀孝明(宇都宮ブリッツェン)とディラン・ホプキンス(オーストラリア、リュブリャナ・グスト・サンティック)のアタックを見送った後、スタートから1時間半を経てようやくペースが落ち着いた。
堀を千切って独走に持ち込んだホプキンスに対し、メイン集団では前日3位の岡篤志(EFエデュケーション・イージーポスト)と、トレック・セガフレードのジャコポ・モスカ(イタリア)、ダリオ・カタルド(イタリア)がコントロールを担う。8周目にホプキンスが捕まって以降も3人のコントロール態勢が崩れることはなく、岡は2回目(6周目)の山岳賞を獲得している。
3回目の山岳賞が用意された9周回目の古賀志林道で飛び出したのは増田成幸(宇都宮ブリッツェン)だった。ブリッツェンジャージを着て走る最後のジャパンカップで先行し、観客に手を振りながら山岳賞を獲得。一気に40秒差をつけた増田はそのまま逃げを継続。10周目に吸収されるまで観客の声援を独り占めにし続けた。
序盤と打って変わったスローペースを経て、11周目に入ると徐々にペースが上がり始める。トレックのコントロールに対してコフィディスやロット・スーダルが集団先頭にメンバーを送り、観客が詰めかけたつづら折れ区間でティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)がペースアップ。「とにかく先頭集団に食らいつく作戦だった」と振り返る世界屈指のパンチャーによる高速ヒルクライムでレースが活性化した。
11周目に入るとニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)が仕掛けてシモン・ゲシュケ(ドイツ、コフィディス)が合流。追走グループからもここまで息を潜めていたアントワン・トールク(オランダ、トレック・セガフレード)がアタックするなどレースは激化する。全日本チャンピオンジャージが目を引く新城もただ一人の日本人選手として追走グループで粘りの走りを続けた。
レースが決定的に動いたのはラスト2周回(13周目)。古賀志林道ではヘルマン・ペルンスタイナー(オーストリア、バーレーン・ヴィクトリアス)が仕掛けたものの決まらず、遅れかけた新城幸也たちが合流するその先では、残り14km地点(田野町交差点手前)でパウレスがこの日2度目のアタックを放った。
マキシム・ファン・ヒルス(ベルギー、ロット・スーダル)のカウンターで独走に持ち込んだパウレスは、12秒リードを稼ぎ出して最終周回突入の鐘を聴く。「追走グループ内では(チームメイトの)ピッコロが一番スプリントがあるので躊躇せずいけた」と最後の古賀志林道を駆け上がったが、その一方でここまでレースを組み上げてきたチッコーネは、マルタンとの激しい牽制状態に陥り追走グループからも脱落。こうして2チームのエースは表彰台のチャンスを取りこぼしてしまった。
昨日のクリテリウムで調子の良さを確認していたと言うパウレスは、その言葉を裏付けるように、飛ぶように最終区間をクリア。追走で脚を貯めたアンドレア・ピッコロ(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト)が抜け出してEFワンツー態勢を固めてフィニッシュへ。2010年のダン・マーティン(アイルランド)、2016年のダヴィデ・ヴィレッラ(イタリア)に続く、チームとしてジャパンカップ3度目の勝利を成し遂げた。
「レースしていて本当に楽しかった。激しいレースでワンツーフィニッシュすることができ、長い時間をかけて遠い日本にきた甲斐があった」と喜ぶパウレスにとって、今回のジャパンカップが意外にもキャリア2勝目。今季ツール・ド・スイスで総合4位、ツール・ド・フランスでステージ4位を2度繰り返して存在感を高めていたオールラウンダーが、シーズン最終レースを勝利で締め括った。
「レース前にあったプランは「勝つこと」。それだけ」と笑うピッコロが12秒遅れの2位に入り、ペルンスタイナーとファン・ヒルスを下したベンジャミン・ダイボール(オーストラリア、チーム右京)が3位表彰台獲得。
以降マルタン、チッコーネ、トマ・ルバ(フランス、キナンレーシングチーム)、ウェレンスと続き、10位がゴツォン・マルティン(スペイン、エウスカルテル・エルスカディ)。見せ場を作った新城は11位フィニッシュでアジア人最高位フィニッシュとなった。
序盤から強豪チームがアタックを打ち合う近年最も厳しいジャパンカップを完走したのは41人。高速化の一途を辿る世界トップレースのワンシーンを垣間見るレースとなった。
ジャパンカップサイクルロードレース 結果
1位 | ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) | 3:37:49 |
2位 | アンドレア・ピッコロ(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト) | +0:12 |
3位 | ベンジャミン・ダイボール(オーストラリア、チーム右京) | +0:13 |
4位 | ヘルマン・ペルンスタイナー(オーストリア、バーレーン・ヴィクトリアス) | |
5位 | マキシム・ファン・ヒルス(ベルギー、ロット・スーダル) | +0:17 |
6位 | ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) | |
7位 | ジューリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) | +0:32 |
8位 | トマ・ルバ(フランス、キナンレーシングチーム) | +0:34 |
9位 | ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル) | +1:32 |
10位 | ゴツォン・マルティン(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ) | |
11位 | 新城幸也(日本、バーレーン・ヴィクトリアス) |
山岳賞
3周目 | ジェームズ・ショー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト) |
6周目 | 岡篤志(EFエデュケーション・イージーポスト) |
9周目 | 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) |
12周目 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) |
text:So Isobe
photo:Makoto AYANO, Yuichiro Hosoda, Kei Tsuji, Satoru Kato